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作家のジョヴァンニ(マルチェロ・マストロヤンニ)と妻リディア(ジャンヌ・モロー)が病床の友人トマゾ(ベルンハルト・ヴィッキ)の見舞いに行く。トマゾはかつてリディアのことを愛していたが、リディアはジョヴァンニと結婚したのだった。その後、夫婦は出版社のパーティーへ。ジョヴァンニは社長の娘ヴァレンティーナ(モニカ・ヴィッティ)に心惹かれる。
中年の危機を描いた映画。終盤の畳み掛けがすごくて余韻が半端なかった。
既婚男性の前に若くて魅力的な女が現れたらどうなるか。妻は加齢で容姿が劣化しているし、長年の結婚生活で愛も冷めている。おまけに夫婦の間には子供もいない。そりゃあ、どうしたって浮気してしまうだろう。だいたい本作のジョヴァンニは売れっ子作家のうえに容姿端麗で、普段からちやほやされているからよくない。我々庶民よりもよっぽど自由に振る舞うことができる。一夫一婦制の難しいところは結婚生活のモチベーションをどう維持するかで、モテる男にとっては維持するためのインセンティブがない。一般論として、男はいくつになっても若い女に惹かれるのだ。その欲望を抑えるのは難しい。
リディアに確固としたアイデンティティがないのが気になるところで、それゆえに夫の浮気が正当化されている。リディアは資産家の娘らしく、どうやらこれといった職能はないらしい。作家の妻という地位に甘んじていて、見ているほうとしては「それでいいのか」と思ってしまう。夫と対等のパートナーになりたかったら、やはり自立してないといけないのではないか。リディアは人間として空白なのだ。年老いた現在、ジョヴァンニを繋ぎ止める強い誘引がなく、また彼女自身も夫への愛を失っている。もはや死んだトマゾへの追憶しか頭にない。ここまで来ると離婚まで待ったなしである。
リディアとヴァレンティーナが同じフレームに入るショットがすごくて、2人の歳の差が、もっと言うとリディアの老いが浮き彫りになるのだから残酷だ。ジョヴァンニの浮気に説得力をもたらしている。結局のところ、女というのは若い頃は恋愛強者である。だが、歳をとると一転して弱者になってしまうのだ。性的魅力の喪失。だからこそ何とかして自立すべきで、女にとってアイデンティティの確立は身を守る手段にもなる。
終盤ではジョヴァンニとリディアが互いの思いを告白する。結果はどうあれ、話し合うことは重要で、それは『進撃の巨人』のテーマにもなっていた。最終的には2人のすれ違いが確認されたが、本作はなかなか意地が悪くて、ジョヴァンニにあのような悪あがきをさせている。今後、夫婦がどうなるかは分からない。宙吊り状態のまま映画はフェードアウトしていく。それゆえに余韻が半端なかった。