海外文学読書録

書評と感想

スティーヴン・スピルバーグ『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002/米)

★★★

16歳のフランク・W・アバグネイル(レオナルド・ディカプリオ)は日頃から父(クリストファー・ウォーケン)を尊敬していたが、その父が母と離婚して離ればなれになることに。それを聞いて家を飛び出したフランクは、行く先々で小切手詐欺に手を染める。その後、フランクはパイロットや医者に成り済ますのだった。一方、FBI捜査官カール・ハンラティ(トム・ハンクス)は、巨額小切手詐欺の存在を認知、フランクを追いかける。

原作はフランク・W・アバグネイル、スタン・レディング『世界をだました男』【Amazon】。

60年代の牧歌的な犯罪を扱っている。オープニングを観た段階で、コンゲームやケイパー・ストーリーみたいなのを予想していたら、案に相違してハートウォーミングな親子ものだった。実父への思慕も去ることながら、自分を追跡してくるハンラティとも擬似的な父子関係を結んでいる。フランクのファザコンっぷりが愛おしかった。

フランクがルパンだとしたら、ハンラティは銭形警部で、2人が対立しながらも奇妙な友情で結ばれるのは、この手のドラマのお約束である。しかも、大抵は追いかけるほうが間抜けだ。ご多分に漏れず、本作でもハンラティは何度かフランクに出し抜かれている。まあ、簡単に捕まえたらドラマにならないから仕方がない。でも、FBIのベテラン捜査官が、下手したらそこらの巡査よりも無能っぽいのはさすがにきついものがある。

フランクはクリスマス・イヴにハンラティの元に電話して、自身の孤独を指摘される。話し相手がいないから電話をかけてきたんだろ、と嘲笑される。フランクが孤独なのは逃亡犯だからというのもあるけれど、それ以上に愛する父と離ればなれであるところが大きいのだろう。フランクが犯罪に手を染めるきっかけが両親の離婚であることを考えると、歯車の狂い方には情状酌量の余地がある。彼はたまたま知能が高くて犯罪者の適性があったのだ。また、フランクが逃亡中の身であるにもかかわらず、結婚して家庭を持とうとしたのも、定位家族の不幸が原因だ。今度こそ幸せな家庭を築きたい。安心できる居場所を作りたい。そういう思いが伝わってきてちょっと悲しくなった。

アメリカは能力があったら囚人でも公的機関に採用されるから、場合によっては捕まることがハッピーエンドに繋がる。ここら辺は日本とだいぶ事情が異なっていて興味深い。日本だと有無を言わさず服役させてその才能を潰してしまう。日本が超大国になれなかったのは、こういう硬直的な社会制度が原因なのだ。僕は時々、アメリカみたいな柔軟な社会が羨ましくなる。