海外文学読書録

書評と感想

芹川有吾『わんぱく王子の大蛇退治』(1963/日)

★★★

王子スサノオ住田知仁)はイザナギ(篠田節夫)とイザナミ(友部光子)を両親に持つ怪童で、オノゴロ島でトラ(木下秀雄)やウサギ(久里千春)たちと遊んで暮らしていた。ある日、母イザナミが死去。別れを惜しんだスサノオは、母が去ったとされる黄泉の国へ旅立つ。道中、兄のツクヨミ(木下秀雄)や姉のアマテラス(新道乃里子)、そして母の面影があるクシナダ姫(岡田由記子)と出会う。

夜の国や火の国、高天原など、スサノオたちは次々と舞台を移動し、主に武力を用いてイベントをこなしていく。その様子はまるでRPGのようだった。漫画でたとえると、『ONE PIECE』【Amazon】みたいな感じだ。それぞれのステージでイベントをクリアしないと、先には進めない。また、イベントをクリアした際には、後のステージで役立つアイテムが貰える。本作は日本神話を元にした映画だけど、神話とはRPGみたいな構造を持っていることが分かった。逆に言えば、『ONE PIECE』は現代の神話である。あの漫画が大ヒットしてるのも、古来から続く物語の王道をやっているからだろう。神話の力とはかくも絶大なものだと感心した。

今まで観てきた東映の漫画映画は、どれも神話や民話を題材にしている。事情はよく分からないけれど、この頃はまだ本格的なオリジナルストーリーを作れる人材がいなかったのだろう。映画は金がかかっているぶん、コケることが許されない。だから、敢えて人口に膾炙した題材を選んだ。アニメ映画がバラエティ豊かになるのは、もう少し先のようである。

最終ステージの出雲の国では、スサノオが自分と同い年くらいのクシナダ姫と出会う。姫には母の面影があって、そんな彼女がヤマタノオロチの生贄に差し出されている。スサノオは激闘を経てヤマタノオロチを倒し、クシナダ姫を救うのだけど、これは死んだ母を救うのと同じ意味合いがあるのだろう。現実ではなす術もなく母の死を見送ったスサノオが、母に似た少女をその代替として救う。つまり、シンボリックな行為として母を救っているのである。本作はわんぱく王子にすぎなかったスサノオが、冒険を通して英雄になる話だけど、その根底に母親の存在があるのが興味深かった。これぞ少年向けアニメである。

ヤマタノオロチ戦では、スサノオが空飛ぶ馬に乗って敵の頭を一つずつ倒していく。その戦いぶりはなかなか熱かった。また、高天原では、スサノオの粗相が原因でアマテラスが天岩戸に引きこもる。オモイカネをはじめとする住人たちが、一計を案じてアマテラスを引きずり出すのだけど、その際、スサノオが一切関与してないのは笑ってしまった。こうなったのもお前のせいなのに、どこで何をしてたんだよ、と。アマテラスが復帰してからしれっと姿を現しているのが可笑しい。