海外文学読書録

書評と感想

川面真也『劇場版 のんのんびより ばけーしょん』(2018/日)

★★★★

夏休み。宮内れんげらいつものメンバーがデパートに行き、福引で三泊四日の沖縄旅行を当てる。いつものメンバーは、かず姉と駄菓子屋の2人の大人同伴で沖縄へ。シュノーケリングカヤックを楽しみつつ、宿の手伝いをしている中学生・新里あおいと親しくなる。

テレビシリーズ【Amazon】がド田舎を舞台にした日常もの*1だったのに対し、劇場版は沖縄を舞台にした番外編といった趣。前者は子供ならではの引き伸ばされた時間を描いており、それはいつまでも続くかのような錯覚を覚えるほどだったけれど、後者は旅行という限られた時間を描いていて、非日常ならではの楽しさと同時に、ある種の儚さをおぼえた。旅行の最終日、越谷夏海は新里あおいと離れるのが惜しくてガチ泣きする。そして、なぜかそれに同調している自分が画面の前にいる……。これって出会いがあれば別れがあるというごく当たり前の状況なのに、見ているほうも不思議とほだされてしまうのだ。特に涙腺が弱いというわけでもないのに、なぜかうるっときてしまう。これは観客である僕が70分の時間を登場人物たちと共有したからこその感情で、時間芸術たる映画のマジックと言えるかもしれない。いかにして物語に没入させるかがエンターテイメントの要諦だとすれば、本作はその辺ばっちり成功していると思う。

テレビシリーズも劇場版も、自然と触れ合う楽しさを描いているところは変わらない。テレビシリーズでは、限界集落ならではの牧歌的な暮らしが郷愁を誘った。それに対して劇場版は、シュノーケリングで海の美しさを、カヤックで森と河川の魅力をそれぞれ示していて、一本の映画で違った風景を並行して見せているのが印象的だった。僕も子供の頃は田舎で生活していたけれど、田舎といっても中途半端な田舎で、せいぜい山に入ってカブト虫を獲ったり、川に行って魚釣りをしたり、ごく平凡な遊びしかしてなかった。思えば、自然なんてろくになかった。だから、本作で描かれる自然はとても眩しく魅力的に映る。都会で暮らしている人なら尚更そう見えるのではなかろうか。

というわけで、本作はひとときの現実逃避にちょうどいいかもしれない。自然っていいなあって素直に思える。見るのだったらまずはテレビシリーズから。 

 

*1:「slice of life」ってやつね。