海外文学読書録

書評と感想

雨宮哲『グリッドマン ユニバース』(2023/日)

★★★★

高校2年生に進級した響裕太(広瀬裕也)、宝多六花(宮本侑芽)、内海将斉藤壮馬)は学園祭の準備をすることに。六花はグリッドマン緑川光)を題材にした演劇の台本を書いていた。裕太は六花に愛の告白をしようと思っている。そんな矢先、ツツジ台に再び怪獣が出現するのだった。新世紀中学生やグリッドマン、果ては麻中蓬(榎木淳弥)、南夢芽(若山詩音)、山中暦梅原裕一郎)、飛鳥川ちせ(安済知佳)が登場し……。

『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』のクロスオーバー作品。

徹底したファンサービスがすごかった。ドラマパートはちゃんとやることをやっているし、バトルパートは作画に力が入っていて熱い。異なる作品の登場人物が絡み合うところも見所である。プリキュアオールスターズもそうだったが、やはりクロスオーバー作品の肝はファンサービスなのだろう。裕太が六花に告白する。このプロットを軸にしたのが本当にいい。やはり彼らにはくっついてほしいから。そして、ガウマ(濱野大輝)が5000年の時を経て姫(内田真礼)と再会したり、満を持して新条アカネ(上田麗奈)が参戦したり、期待を裏切らない展開を見せてくれる。特に実写を交えたアカネの登場シーンは鳥肌ものだった。映画としてはファン向けなので窓口は狭いが(シリーズ未見の人が見てもつまらない)、そのぶん刺さる人には強烈にぶっ刺さる。クロスオーバー作品としては正しいあり方だと言える。

虚構を肯定的に扱っているところがいい。1997年に公開された『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』では、おたくが虚構に耽溺することを否定していた。アニメを卒業して早く大人になれというメッセージを我々に突きつけてきた。それに対して本作は虚構の力を肯定する。人間は虚構を信じることができる唯一の生命体であり、虚構によって救われることもあるのだ、と。実際、『SSSS.GRIDMAN』においてアカネは自分が作った虚構のおかげで社会復帰できた。虚構が落ち込んだ人間の精神を回復させたのである。虚構は時に我々を慰め、次のステップに向けてそっと後押ししてくれる。セラピーの道具として虚構は大きな力を持っていた。そもそも我々の世界はアニメだけでなく、国家や資本主義など虚構に溢れている。虚構抜きで我々の生活は語れない。良くも悪くも虚構を信じないと生きていけないわけで、虚構と上手く付き合うことが人生の重大事なのだ。その点、我々おたくには一日の長がある。虚構の力を信じる一方で虚構の陥穽に注意を払う。虚構に耽溺することはリテラシーを涵養するうえで有効なのだった。

本作はドラマパートとバトルパートを交互に繰り返す構成だが、『シン・ウルトラマン』『シン・仮面ライダー』に比べると極めてスムーズだ。繋ぎ方が自然でバランスがいい。そして、ドラマパートが面白いのは言うまでもなく、バトルパートも圧倒的な熱量で見応えがある。まるでアクション映画に必要なのは熱量だと言わんばかりだ。物語にカタルシスがあるのもこの熱量に支えられているからである。本作は最後までファンサービスに徹していてクロスオーバー作品の醍醐味を味わった。