海外文学読書録

書評と感想

中島哲也『下妻物語』(2004/日)

茨城県下妻市ロリータ・ファッションをこよなく愛する桃子(深田恭子)は、電車で3時間かけて代官山の洋服屋に買い物に行くのを楽しみにしていた。そんな彼女がふとしたきっかけでレディースのイチコ(土屋アンナ)と出会う。桃子は孤高な女だったが、積極的なイチコに押されて親交を深めていくのだった。やがて事件が起こり……。

原作は嶽本野ばらの同名小説【Amazon】。

これはしんどかった。いかにも日本映画って感じの安っぽい語り口を貫徹している。内容がポップであるぶん、テレビ資本的な悪癖が目立っていた。一部の洋画ファンが頑なに邦画を避けているのは、こういう生ぬるい映画が主流だからだろう。感触としては『映画 ビリギャル』に近くて見るに堪えない。

映像に変なフィルターがかかってるせいで、ロリータ服が全然映えてなかった。たぶん本来だったらもっとヴィヴィッドで可愛いのだろう。それが本作だと普通の洋服と大差ないし、田舎の風景も代官山のお店も、何もかもが死んだ魚みたいで魅力がない。主人公はロココの精神を大事にしているのに、映像がそれに追いついていないのだ。思うにこの変なフィルター、リアルな映像を自力で作れないから小手先で誤魔化そうとしているのではないか。制作上の都合が透けて見えてかなりきつい。

編集もあまり良くなくて、記号的なエピソードをただ並べているだけだった。エピソードが記号的だから、登場人物の反応も記号的で、2人の存在に血肉が通っているように見えない。物語がクリシェの寄せ集めであることをまったく隠さないところはある意味感心するけれど、せめてもう少し工夫が欲しかった。これじゃあ、安っぽいエンタメ小説を読んでるのと変わらない。

とはいえ一箇所だけ良かったところがあって、それは終盤で2人がレディースと対決するシーンだ。桃子のロリータ服に血飛沫がかかったうえ、水たまりに放り出されてびしょ濡れになる。そして、立ち上がって見せたその汚れた姿はすごくインパクトがあった。優雅とか高貴とか、そういうのを超越した独特の美が出現している。ここだけは本当に良かった。

ロリータの桃子とレディースのイチコは、一見すると対極的な存在である。けれども、実はこの2人には交換可能性があると思う。両親がヤクザと水商売の桃子はヤンキーに転がる可能性があったし、厳格な家庭で育ったうえに陰キャのイチコはロリータ・ファッションに耽溺する可能性があった。2人は遠いようでコインの裏表のように近い。親密になるのもむべなるかなである。