海外文学読書録

書評と感想

『逃げるは恥だが役に立つ』(2016)

★★★

25歳の森山みくり(新垣結衣)は大学院を出るも就活に失敗して派遣社員をしていた。ところが、雇用先で派遣切りに遭ってしまう。無職になったみくりは父の伝手で家事代行サービスをすることに。仕事先は35歳・SEの津崎平匡(星野源)の家だった。みくりは津崎からその丁寧な仕事ぶりを褒められる。やがて2人は諸々の事情から「雇用主と従業員」という契約結婚をするが……。

全11話。野木亜紀子脚本。

原作は海野つなみの同名漫画【Amazon】。

自尊感情の低い中年童貞をいかにして攻略するかという恋愛ドラマ。本作はそこに夫婦間の家事の問題やアラフィフ女の年の差恋愛といったPCな要素を織り込んでいる。これは現代において作られるべくして作られた、恋愛ドラマの最新アップデート版といった感じだ。恋愛も、そして家事の問題も、すべて理詰めで進めていくから隙がない。本作はプライベートの領域にビジネス思考を持ち込んだところが新鮮だった。

みくりと平匡の恋愛は率直に言ってあまり興味がなくて、みくりを演じる新垣結衣がキュートだったから見れたところがある。彼女はよくいる癒やし系といった趣だ。一方、平匡を演じる星野源は絶妙な配役で、ここまで清潔感のある非モテを演じられるのは日本中探しても彼しかいないだろう。新垣結衣の代わりはいても星野源の代わりはいない。それだけの個性とリアリティがある。星野源非モテらしい外見でありながらも嫌悪感を抱かせないところが素晴らしく、本作におけるキーパーソンになっていた。

主婦が行う家事をどう評価するか、というのは極めてアクチュアルな問題で、個人的には恋愛以上に落としどころが楽しみだった。家事代行サービスになぜ賃金が発生するのかといったら、雇用主と従業員の間に愛情がないからであり、逆に主婦の家事がなぜボランティアなのかといったら、夫婦の間に愛情があるからである。しかし、みくりはそれを「好きの搾取」と喝破するのだ。これは労働における「やりがい搾取」を踏まえた発言である。家庭の運営において不公平が発生する以上、両者が納得するよう家事を分担するしかない。夫婦は対等で、家庭の共同経営責任者なのだから。この結論は、昭和の家父長制モデルが完全に崩れたことを示している。

恋愛ドラマのゴールは2人の恋が成就し、あわよくば結婚というところまでだ。しかし、個人的にはその先の結婚生活が見たいと思う。上手く行けば半世紀くらい一緒に暮らしていくのだから。それだけ長いとライフスタイルが変わるし、2人の関係も変わっていく。その片鱗を覗かせたのが最終話で、本作が一番面白かったのもここだった。くっつくまでもよりもくっついてから。まあ、これはドラマではなく、文学でやる領域だろう。

32歳の風見(大谷亮平)と49歳の百合(石田ゆり子)が交際するのは非現実的で、いくら何でもPCに配慮しすぎではないかと思った。何もここまでしなくても、と呆れたことは否めない。風見がマザコンという設定ならいざしらず、そういう描写も特になかったし。綺麗事もほどほどにしないと興醒めしてしまう。