ヒラリー・マンテル『罪人を召し出せ』(2012)

罪人を召し出せ

罪人を召し出せ

 

★★★★

1535年秋。イングランドヘンリー8世アン・ブーリンと再婚するも、彼女が妊娠している間に女官のジェーン・シーモアに愛情を抱くようになる。そんななか、秘書官のトマス・クロムウェルアン・ブーリンの不興を買い……。

「もしも息子を持つことができなければ、一国の王にそれができなければ、他になにができようとも、意味はない。勝利も、戦利品も、王の作る法律も、王が保持する名高い宮廷も、価値がない」(279)

ブッカー賞受賞作。『ウルフ・ホール』の続編。

ようやくこのシリーズの面白さが分かってきたかもしれない。今回は王妃アン・ブーリンの処刑までを扱っているのだけど、事前にWikipediaで関係人物の予習をしておくと、この複雑怪奇な事件を作者がどのように再構成したのか分かって興味深い。1人の軽率な若者の放言で芋づる式に男女が逮捕・処刑されるなんて、まさに「口は災いの元」を地で行っている。これまで良い人っぽく描かれていたトマス・クロムウェルが、積極的にアン・ブーリンたちを破滅に追い込むところも意外で、彼が囚人たちをひとりひとり訊問していくところは本作最大の読みどころだと思う。結局、王妃は彼らと不倫したのか? というのが事件の焦点だけど、これを読んでも真相は藪の中という感じでいまいちすっきりしない。国王をはじめとした各々の思惑がぴったり一致して、事態は収まるべきところに収まったという感じがする。この時代の権力闘争は殺るか殺られるかであり、トマス・クロムウェルはその力学に沿った行動をとったということなのだろう。とりあえず、彼はろくな死に方をしないと断言できる(実際、彼も最終巻で処刑される予定)。

前作・本作ともに国王の結婚問題が大きな柱になっていて、そのすべては男児が生まれないことに端を発している。なぜかというと、ヘンリー8世は男子を後継者にしたがっているから。この問題、数年前の日本でもあったので何となく既視感がある。すなわち、天皇家の後継者問題だ。いつの時代も、そしてどこの国でも、王室というものは同じ問題を抱えているのだなあと妙に感心したのだった。王の気まぐれで死人が出ないだけ現代のほうがマシだろうか。何せ、本作の時代は王の死を想像しただけで死罪に処されるくらいだから……。