海外文学読書録

書評と感想

オリバー・ストーン『JFK』(1991/米)

JFK

JFK

  • ケヴィン・コスナー
Amazon

★★

1963年11月22日。テキサス州ダラスでジョン・F・ケネディ大統領が暗殺された。リー・ハーヴェイ・オズワルドが犯人と目されたものの、彼はジャック・ルビーによって殺害されてしまう。ニューオリンズ地方検事ジム・ギャリソン(ケビン・コスナー)は違ったアプローチで事件を捜査し、実業家クレイ・ショー(トミー・リー・ジョーンズ)に目星をつける。

原案はジム・ギャリソン『JFK ケネディ暗殺犯を追え』【Amazon】、Jim Marrs『Crossfire: The Plot That Killed Kennedy』【Amazon】。

206分(3時間26分)は長すぎるし、内容もラストの裁判以外は大して面白くないのできつかった。動画配信は自主的に休憩を挟めるからいいが、劇場で見た人はよく最後まで我慢できたと思う。僕だったら途中で退出していた。

総論としては現代のディープステートみたいな陰謀論だったのに驚いた。大統領を殺害できるほどの巨大な権力がホワイトハウス周辺にあって、それらが結託してJFKを殺害したのだという。背景にはキューバ危機とベトナム戦争があった。ジョンソン副大統領、軍首脳部、CIAなど、JFKに批判的な勢力が協力していたと示唆される。この大きな枠組みが僕には信じられない。これだけ大勢の人が関わって情報が漏洩しない、なんてことがあるのだろうか。そもそも権力の中枢には多くの民主党議員がいたはずで、彼らに知られず事を進められるのか疑問に思う。だから総論としては眉唾だった。

一方、各論としては面白い。たとえば、オズワルド単独説には無理があるという論証。オズワルドは手動式のライフルを使い、6秒以内に3発を撃った。しかし、検証によるとそんなことをできる者は一人もいなかったという。どんな名手でも2発しか撃てないようだ。そこでオズワルド単独説に疑問が出てくる。代わりに登場したのは、三方からの交差射撃説だった。これは三地点に狙撃手を配置し、ほぼ同時に合計6発発砲したというものだ。そうするとJFKや隣りにいたテキサス州知事の傷も辻褄が合うのである(教科書ビルからの3発だと弾道の説明がつかない)。しかし、6発撃ったということは銃声も6回あったということだが、その辺りの説明がなくてもやもやする。6回も銃声があったら現場の人たちが証言していただろう。この説も決定的ではない。

いつの時代も要人暗殺はエンターテイメントで、僕はJFK暗殺に安倍元首相暗殺を重ねている。僕にとってオズワルドは山上徹也である。どちらも暗殺の様子が映像メディアに記録されていた。しかし、両者が決定的に異なるのは、山上が現行犯だったのに対し、オズワルドは後から逮捕されたことである。オズワルドが発砲したところは誰も見てないし、映像にも記録されてない。だからこそ陰謀論の生まれる余地がある。

実はJFK暗殺については、2023年の段階で機密資料が99%公開されている。本来は2039年まで非公開の予定だったが、前倒しされたのだ。今後はこの資料に基づいた事件の再構築が行われるだろう。それはまず書籍という形で行われ、続いて映画化もされるはずだが、その成果を見るのが今から楽しみである。要人暗殺は最高のエンターテイメントなので、今後もJFKで盛り上がっていきたい。

話を本作に戻すと、本作は長すぎるのが大きな欠点だが、もうひとつ致命的な欠点があって、それは家庭劇をねじ込んだことだった。仕事に邁進する夫と家庭を大事にしてほしい妻。両者の対立をもうひとつの柱に据えている。これがいかにもハリウッド的な茶番で鬱陶しかった。そもそも男は大義のために働き、女はそれを理解しない、こんな図式をいつまでも用いるのは怠惰だろう。僕はもう飽き飽きである。