海外文学読書録

書評と感想

オリバー・ストーン『ウォール・ストリート』(2010/米)

★★

ウォール街。ジェイコブ・ムーア(シャイア・ラブーフ)は証券会社で働いていたが、勤務先の株が急落して経営者が自殺することになる。株価急落は投資銀行家ブレトン(ジョシュ・ブローリン)による風説の流布が原因だった。一方、伝説の投資家ゴードン・ゲッコー(マイケル・ダグラス)は8年間服役したあと出所し、現在は著作の宣伝のため講演会をしている。折しもジェイコブはゴードンの娘ウィニー(キャリー・マリガン)と交際しており……。

『ウォール街』の続編。

2008年のリーマン・ショックを背景に、ジェイコブの復讐、ジェイコブとウィニーの恋愛、ゴードンとウィニーの確執などを描いている。スリリングな金融ドラマと情緒的な人間ドラマをバランスよく配しているが、どちらもありきたりでつまらなかった。本作に比べたら『ウォール街』のほうがまだパンチが効いている。ジェイコブは敵役としてはだいぶ弱く、ブログに事実を暴露しただけで復讐を果たしてしまうのだから拍子抜けである。前作も本作もゴードンが最強だった。

ゴードンの曲者ぶりがドラマを撹乱していて、その人物像ゆえにどんでん返しが生じているのは面白い。確かにこれは見ていて騙される。ゴードンはインサイダー取引と証券詐欺罪で8年間服役した。それに凝りてマネーゲームの最前線からは引退していたが、あることがきっかけで立場が急変する。ゴードンはジェイコブに対し、金よりも時間のほうが大切だと吐露していた。しかし、それが本音かどうかは分からない。欲望の在処がいまいち見えないため、見ているほうも行動の帰結しか判断材料がないのである。だから娘との和解に繋がるラストは意外だった。自分の野心を満たしたと思わせて、そうではないところを見せつける。サプライズとはこう作るのだ、というお手本になっている。

バブルはいつか弾ける、というのがリーマン・ショックの教訓だが、日本人はそれを90年代に嫌と言うほど思い知らされている。だから我々が見ると遅れている映画に感じることは否めない。前提となるスキームは異なるが、不動産価格が上がり続けると信じた結果なのは同じだ。投資家は未来の役に立つ技術に投資すべきであり、決してマネーゲームをしてはならない。本作の場合、正しい投資の対象は水素を原料とした核融合エネルギーだった。特にジェイコブはこの技術に執着しており、ウィニーが相続する予定の1億ドルを本人の意(彼女は慈善事業に寄付するつもりだった)に反して投資させようとしている。他人の金を動かそうなんて傍から見ると異常だが、こういったエコロジー技術はリベラルの価値観と合致しているから許される。環境にやさしい次世代のエネルギーはリベラルにとって正義なのだ。本作はこのようなリベラルの傲慢さが顔を見せていて、新自由主義の一時的な退潮に付け込んでいるところが度し難い。オリバー・ストーンの悪い部分が出ていた。

映像でだいぶ遊んでいるが、センスが前時代的で見ていて気恥ずかしかった。特に車の中で電話をかけるシーンは、受話器から相手の顔が出入りしていて、ふざけるのも大概にしろ、と思ったくらい。また、このハイテク時代にアイリスアウトを使っているのもすごかった。『ウォール街』とは違った意味でダサい映画である。

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