★★★
ウッドハウス夫妻がニューヨークのアパートに引っ越してくる。夫のガイ(ジョン・カサヴェテス)は売れない役者をしており、妻のローズマリー(ミア・ファロー)は彼との間に3人の子供を欲しがっていた。新顔のローズマリーに対し、隣人の老婆ミニー・カスタベット(ルース・ゴードン)が何かと世話を焼いてくる。やがてローズマリーは第一子を妊娠するが……。
原作はアイラ・レヴィンの同名小説【Amazon】。
ホラー映画の楽しみ方がよく分からない。ホラー小説の楽しみ方もよく分からない。ただ、映画としては徹頭徹尾ローズマリーが孤立無援の状況に置かれるところがスリリングだったし、終盤はクライマックスの前にツイストを入れることで大きなサプライズを作り出している。よく練られた脚本だと思った。
ミア・ファローの演技はオスカーものだし、ルース・ゴードンも厚かましいBBAを好演している。しかし、頭では名作だと納得しても、心の部分ではそこまで感銘を受けてない。それは前述の通り、僕がホラー映画の楽しみ方をよく分かってないからだろう。僕は男性なので妊娠の苦悩に切実さを感じない。また、キリスト教文化圏の人間じゃないので悪魔崇拝にもピンとこない。唯一感情移入できたのがローズマリーの孤独で、用意された数々の仕掛けに対し、評価のポイントが狭くなってしまった。
本作の恐怖の源泉は、身近にいる人たちがみんな敵で、都会の真ん中において孤立無援であることだ。隣人も、医者も、そして夫も敵である。ローズマリーに力を貸してくれるのは遠方の友人であり、直接は助けてもらえない。せいぜい自分が置かれた状況に対するヒントをもらえるだけである。そして、敵はそういった味方を一人ずつ排除し、ローズマリーの体を着実に蝕んでいく。彼女の日常には組織的な陰謀が渦巻いていて、自分一人の力で窮地を脱しなければならない。そのハードルがめちゃくちゃ高いため、見ていて「これは無理ゲーではないか」と恐怖する。この部分は紛れもなくホラーだった。
アパートの一室で会合している人たちが正体を現すところもツボで、あれはファナティックなキリスト教徒の裏返しのような気がした。つまり、神への信仰が悪魔への崇拝に変わっただけである。無宗教の僕はキリスト者とは価値観が断絶しているわけで、その分かり合えなさをねじれた形で示されたのが良かった。考えてみれば信仰を抱いている人たちは不思議だ。何を根拠に信仰しているのか不明だし、その盲目さゆえに得体の知れない狂気を感じる。特に現代の先進国において超越者を信仰するなんて訳が分からない。近代の叡智は超越者がいないことを明らかにしたではないか。未だにキリスト教徒でいることは知的に怠惰ですらある。
キリスト教文化圏のホラーは宗教色が強く、個人的にはその部分で参入障壁が高いように感じた。グローバルスタンダードに馴染むのもなかなか難しい。