★★
情報の運び屋をしているヴァルテル(ダニエル・メズギッシュ)が、ダンス・クラブでブロンド女(ガブリエル・ラズール)と楽しく踊る。そこにボス(シリエル・クレール)から連絡が入ったため、直接会って命令を受け取った後、車で帰路につく。すると、道路に先程のブロンド女が血を流して倒れていた。ヴァルテルは助けを求めるべく、通りがかりの屋敷に立ち寄る。
ルネ・マグリットの同名絵画をモチーフにしている。
現実と幻想を混線させる手法が凡庸なオカルト趣味と結びついていて、正直なところ困惑した。とはいえ、どこまでが現実でどこからが幻想か分からない筋運びはスリリングで、『マトリックス』【Amazon】を前衛映画風にアレンジすると本作になるのだと思う。途中で『時計じかけのオレンジ』【Amazon】っぽい記憶改竄装置が出てきたときは、あまりに露骨すぎて笑ってしまった。相変わらずケレン味の強い作風だけど、今回はラストで辻褄合わせをせず、迷宮的なオチにしているのが印象深い。
ロブ=グリエの映画は、現実に起きたことと現実には起きてないイメージを同列に組み合わせ、映画内の虚実を曖昧にさせるのが特徴だ。そして、映像はいかにも低予算で安っぽい。しかしそれが、ハリウッドに代表される高度資本主義経済のアンチテーゼになっていて、斬新に見えたり格好良く見えたりする。思うに、ヌーヴォー・ロマンやヌーヴェルヴァーグの本質ってここにあるのではないか。同じアイデアをビッグバジェットで再現したら、かえって偽物臭くなるだろう。たまにこういうニッチな映画を観ないと窒息してしまうので、今後も野心的な作り手が出てくればいいなと思う。
本作において、現実と幻想の境界になるのがヴァルテルの首についた傷だ。その赤い印だけが確かな体験の拠り所で、あれは事実だったかもしれないと物理的に跡づけている。とはいえ、最後まで見るとこの部分もあやふやだ。ヴァルテルが放り込まれたマトリックス的な世界においては、物理的な印ですら幻想の波に打ち消される。現実と幻想が混線するなか、唯一統合的なイメージになっているのがルネ・マグリットの「囚われの美女」で、本作は絵画を冠的に配した結果、かろうじてまとまりを持った映画になっている。
それにしても、ダニエル・エミルフォーク演じるスキンヘッドの刑事が強烈だった。