海外文学読書録

書評と感想

フェデリコ・フェリーニ『青春群像』(1953/伊=仏)

★★★

イタリアの田舎町。5人の無職男性たちは当てもなく日々を過ごしていた。そんなある日、色男のファウストフランコ・ファブリーツィ)がモラルド(フランコインテルレンギ)の妹サンドラ(レオノーラ・ルッフォ)を妊娠させてしまう。一方、アルベルト(アルベルト・ソルディ)は姉(クロード・ファレール)に金を無心し、作家志望のレオポルド(レオポルド・トリエステ)は発表の当てのない戯曲を書き、歌が得意なリッカルドリッカルドフェリーニ)は美声をはためかせている。サンドラと結婚したファウストは骨董品店で働くことになるが……。

田舎で燻っている人たちの青春群像だが、5人のうち4人がアラサーなのできつかった。見ていていたたまれない気持ちになってしまう。唯一の若者が狂言回しのモラルドで、最終的に彼は町から出ようと汽車に乗り込む。そりゃこんなところで暮らしていたら無為徒食のまま老いさらばえていただろう。何かを成し遂げたいなら都会に出るしかない。ありがちな結末だが、やはり「地元最高!」みたいな人生はよろしくないのだ。前途ある若者だったら尚更である。モラトリアムはだらだらと長引かせず、早いうちに終わらせたほうがいい。本作を観てそう痛感した。

ファウストのクズっぷりが目を引く。サンドラの妊娠が発覚した際は父親に金の無心をしてミラノにトンズラしようとしていた。結局は責任を取る形で結婚するのだが、その後も何かと落ち着かない。妻と映画を観に行った際は隣の席の婦人にちょっかいを出している。婦人はそれに嫌気が差して退席するのだが、ファウストは彼女の自宅まで追いかけて強引にキスするのだった。妻と映画を観ていてこの所業はどうかしている。また、骨董品店で働き出した際は、店主の妻を口説いてこれまた強引にキスしている。いくら何でも欲望に忠実すぎではなかろうか。しかも、それが原因でクビになった後は退職金と称して店から天使像を盗んでいるし、妻から浮気を追求されたときは相手が誘ってきたと嘘をついている。ファウストは30歳のいい大人である。それがこの体たらくなのだからどうしようもない。欲望に勝てないうえに責任から逃げようとする。クズはいくつになってもクズなのだと思い知らされる。

個人的に注目したいのがレオポルドだ。彼は作家志望者である。作家志望者は創作という言い訳があるぶん、無職であることが正当化される。世に出るための準備をしているというアリバイ作り。夢のために努力しているからニートではない。そういう言い分が成り立つ。そして、彼に付きまとっているのがワナビーの孤独だ。友達はみな文化とは無縁で芸術について語り合うことができない。一人黙々と筆を走らせる日々である。ここが田舎住みのつらいところだろう。周囲は文化レベルの低いマイルドヤンキーたち。彼らに自作を評価する術はない。レオポルドは友達と遊びつつも本質的な部分では孤独である。我々はつい忘れがちだが、インターネット以前の社会とはこういうものだった。同好の士が近所にいないという問題。テクノロジーの発展は多くの人を救っているわけで、僕は現代に生まれて良かったとつくづく思う。

「友達に笑い者にされた」と姉に訴えたアルベルト。姉は間髪入れず「友達が人を笑えて?」と返している。このやりとりが可笑しかった。5人の関係をよく表している。