海外文学読書録

書評と感想

チャールズ・チャップリン『独裁者』(1940/米)

独裁者 (字幕版)

独裁者 (字幕版)

  • チャールズ・チャップリン
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★★★★

第一次世界大戦。トメニアの兵隊として従軍したユダヤ人の床屋(チャールズ・チャップリン)が、負傷した士官のシュルツ(レジナルド・ガーディナー)を救うも、一緒に乗った飛行機が墜落する。20年後、トメニアでは政変が起きて独裁者ヒンケル(チャールズ・チャップリン)がトップに立っていた。記憶喪失で入院していた床屋は病院を脱走し、ゲットーにある自分の店に帰ってくる。突撃隊に詰め寄られた床屋は近所のハンナ(ポーレット・ゴダード)に助けてもらい……。

トーキーになってからギャグのキレが鈍ったような気がするが、それを帳消しにするくらいラストの演説が素晴らしい。チャップリンがヒューマニストと評される所以がよく分かった。

全体の雰囲気からすると、この演説だけ「マジ」になっていて浮いている。表情は真剣そのものだし、ユーモアの欠片すらない。しかしだからこそ、一つ一つのセンテンスが心に響くのだ。平和ボケした現代人は、こういうベタなメッセージに対してシニカルな態度をとりがちである。ノンポリこそが賢い大人の態度だと冷笑しがちである。ところが、当時はそんな余裕なんてない情勢だ。ナチス・ドイツが現在進行形で他国を侵略し、ユダヤ人を虐待している。誰かが声を上げなければならない。その役割を担ったのがコメディアンのチャップリンで、彼は自分の影響力をフル活用すべく映画を作った。この手の映画はややもするとプロパガンダに流れがちだが、しかし普遍的な道徳というのは確実に存在していて、本作はそれを見事に体現している。おそらく今から100年経っても色褪せないのではないか。単純な話、人が人を蹂躙していいわけないのだ。それが許されたのは野蛮な中世まで。人は歴史から学び、多くの血を流しながら権利を獲得してきた。今更それを失うわけにはいかない。

コメディアンとしてのチャップリンは、身長165cmという小柄な体型でだいぶ得をしている。本作の場合、この体型で独裁者(アドルフ・ヒトラーを連想させる人物)を演じているからこそ、強烈なアイロニーになっている。これが高身長のイケメンだと「笑い」を作りにくい。コメディアンとは自分の短所を長所に変える名人だと感心した。

ヒンケルが地球の形をした風船と戯れるシーン。ここで彼は世界と存分に戯れ、最後にはそれを破裂させてしまう。パントマイムによってアドルフ・ヒトラーの何たるかを雄弁に物語っていた。本作で一番好きなシーンかもしれない。

他人からバカにされることを恐れず、マジになることの大切さ。SNS時代の現代人はメタゲームに明け暮れ、そのことを忘れてしまった。確かにマジになることは格好悪いが、格好悪いと思われることを恐れるのもまた格好悪い。倫理・道徳に関わることについてはマジになったほうがいいだろう。