海外文学読書録

書評と感想

ウォルター・ヒル『ロング・ライダーズ』(1980/米)

ロング・ライダーズ

ロング・ライダーズ

  • デヴィッド・キャラダイン
Amazon

★★★

南北戦争後のミズーリ州。ジェシー・ジェームズ(ジェームズ・キーチ)ら強盗団が銀行や列車、駅場所を襲撃する。メンバーは3組の兄弟で構成されていた。メンバーの中ではボブ・ヤンガー(ロバート・キャラダイン)が目立っている。ピンカートン探偵社に追われることになった強盗団は、互いが殺し合う報復合戦を繰り広げることになった。強盗団は段々と追い詰められていく。

西部劇というよりは南部映画みたいだった。強盗団は私利私欲の他に南北戦争の意趣返しをしている節があって、北部人を過剰なまでに敵視している。ピンカートン探偵社との対立は南北戦争の再来であった。今の合衆国は戦争の結果、北部のヤンキーたちに支配されている。自分たちの権利はヤンキーによって奪われた。だったら草の根で動いて奪い返してやろう。劇中ではっきりと宣言しているわけではないが、彼らの行動にはその気概が滲み出ている。最後に襲うのがミネソタ州の銀行であるところが象徴的で、ここには北部の勤め人が金を預けている。南北の経済格差の元凶とも言える場所であり、ピンカートン探偵社の目を掻い潜ってミッションを成功させたら戦果も大きい。今回の作戦は終わりなき逃避行から日常に帰ることでもあった。彼らのやっていることは荒野のゲリラ戦である。方方で強盗を働いて合衆国に経済的なダメージを与える。この作戦はベトナム戦争を連想させるところがあり、弱者の戦術として意識的にフィーチャーされた感がある。

南部人らしく名誉の文化に染まっているところが目を引いた。名誉の文化とは以下の通りである(引用は林智裕『「やさしさ」の免罪符』【Amazon】から)。

「名誉の文化」が支配的なコミュニティ下において、人々は平素から自身の地位や権威、発言力などを裏付ける名誉を自助自力で積み重ねることに熱心である(さもなければ、周囲から軽んじられ、「真っ当な人間」として扱われないため)、仮に自身あるいは所属するコミュニティの名誉が侮辱とされたり恥をかかされた、端的に言えば「ナメられた」場合、力を誇示しての反撃や報復といった自力救済によって名誉回復を試みる。(p.33)

強盗団から離れたエド・ミラー(デニス・クエイド)が婚約者に振られたのも土壇場で男気を発揮しなかったからだし、ボブ・ヤンガーが酒場で殺し合いをするはめになったのも自身の名誉を守るためである。名誉の文化で重要なのは男らしさだ。ここぞというときに発揮しないと人権を剥奪されてしまう。現代の去勢された日本人にはついていけない価値観であり、だからこそ19世紀の前時代性が際立つことになる。名誉の文化もまた本作を特徴づけるものであった。

登場人物のルックスは日本の大河ドラマのようなコスプレ感が満載で、悪い意味で現代的だった。また、銃撃戦についてはリアリズム重視で、凄腕のガンマンが一発で仕留めるみたいな描かれ方はされない。銃撃の一発一発が重く、食らった人間は相応のダメージを受けて血を流す。黄金期の西部劇より遥かに生々しくて見応えがあった。この辺の描写は評価できる。一方、スローモーションがしつこく使われているところはマイナスで、作り手の押しつけがましさが鬱陶しかった。

馬に乗った強盗団が家屋のガラスを体当たりでぶち破るシーン。当時の映像技術だとガチでやっているはずなので、これをどうやって撮ったのか気になった。