海外文学読書録

書評と感想

滝田洋二郎『コミック雑誌なんかいらない!』(1986/日)

★★★

ワイドショーのレポーター・キナメリ(内田裕也)は、「恐縮です」が口癖でツッコミに定評があった。彼は空港で桃井かおりにインタビューを試みるもまるで相手にされない。また、開店前の喫茶店に突入して三浦和義にインタビューするも論破されてしまう。バーに飲みに行くと、来店していた安岡力也と桑名正博に追い返されるのだった。他にも松田聖子神田正輝の結婚式や山一抗争の取材をするが……。

80年代前半のトピックを詰め込んでいてすごかった。おニャン子クラブも出演しているし、日航機墜落事故も取り上げているし、クライマックスは豊田商事会長刺殺事件(をモデルにした事件)である。現代人には想像もつかないが、インターネットのない時代において大衆の情報源は専らテレビだった。シリアスな事件も芸能人のゴシップもみんなテレビで知ったのであり、とりわけワイドショーに影響力があった。梨元勝が活躍したのもこの時代である。以降、テレビの全盛期はしばらく続く。テレビの大きな特徴はお茶の間を意識した軽薄さだが、今見ると我々はその軽さに耐えられない。しかし、それは当時の人も同様だったようだ。本作から見て取れるマスコミへの批判的な眼差しは、感性が現代人のものと変わらないことを示している。インターネット以前の人たちも存在の耐えられない軽さにうんざりしていたのだ。我々はその事実に勇気づけられる。

本作はキナメリの欲望の在り処が分からないところがいい。彼は人の褌で相撲を取る職業として軽蔑されているが、何をされても怒ったりしない。死んだ目をしながら淡々と仕事をこなしている。様々な場所に突撃取材を試みるも、その仕事が実を結ぶことはない。取材対象からは大抵無視されるし、重要な現場からは締め出されている。ドン・キホーテのように突撃レポートする姿が高視聴率に繋がっているようだ。そんなキナメリも学生時代は硬派なジャーナリストに憧れていた。ところが、いざ就職してみると人のゴシップを追い回すやりがいのない仕事を振られている。ただ人に軽蔑されるだけの乞食みたいな職業。こんなもの人生の終身刑のようなものだ。中年の彼は理想とは程遠い現実を受け入れ、今では感情が麻痺している。そして、皮肉なことにその不感症な態度が傍目からはプロフェッショナルに映っている。実際は使命感も何もないただの労働ゾンビなのに……。振られた仕事を機械のように黙々とこなす。社会人とは得てしてこういうものであり、我々は彼から人生の悲哀を感じ取る。

印象に残っているシーンは、キナメリがホストクラブの体験レポートをするシーン。働いているホストが脂ぎった中年男性ばかりで面食らった。現代のホストは若いイケメン(雰囲気イケメン)が主流なのでギャップがある。中年たちがビルの屋上で「女は金のなる木だと思え」と唱和している姿はシュールである。こんなおじさんたちに客がつくなんて何かの冗談としか思えない。若くもなければイケメンでもない男性にいったい何のバリューがあるというのだろう? 80年代は良くも悪くも芋っぽいと思った。