海外文学読書録

書評と感想

エリック・ロメール『海辺のポーリーヌ』(1983/仏)

海辺のポーリーヌ

海辺のポーリーヌ

  • アマンダ・ラングレ
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★★★★

ノルマンディー。15歳のポーリーヌ(アマンダ・ラングレ)が、従姉のマリオン(アリエル・ドンバール)と共に海辺の別荘にやってくる。2人はそこでマリオンの元恋人ピエール(パスカル・グレゴリー)とピエールの友人にして民族学者のアンリ(フェオドール・アトキン)と出会う。愛に燃え上がりたいマリオンはアンリに恋をするのだった。一方、ポーリーヌは同世代の少年シルヴァン(シモン・ド・ラ・ブロス)と知己になり、間もなく親密になる。

フランス人って作家も映画監督もやたらと愛を題材にするから面白い。特にエリック・ロメール監督は恋愛哲学を濃密に織り込んでくるから見応えがある。本作もセリフが多くて字幕を追うのに必死だった。

民俗学者のアンリがとにかく曲者だった。彼は職業柄定住せず、元妻ともそれが原因で別れている。彼にとって放浪生活は自由を意味していた。また、女に対しても執着せず、マリオンといい関係になりながらも他の女とベッドを共にしている。それも彼にとっては自由の表れだった。なぜマリオンという完璧な肉体を手にしながらも敢えて浮気しているのかと言ったら、完璧な肉体よりも不完全なほうがそそられるからだ。アンリは「相手の欲望に火をつけることが恋愛の秘訣」と豪語しており、欲望の赴くまま女に手を出している。このアンリは成り行きからシルヴァンに自分の浮気の咎を押しつけていて、中年男の老獪さをこれでもかと見せつけていた。最終的には誤解が解けてシルヴァンの名誉が回復されたものの、根本的にたちの悪い男であることに変わりはない。諸悪の根源として映画をスリリングなものにしている。

アンリが掲げる自由は彼自身がモノアモリーの束縛から解放されることであり、それは同時に他人の心を踏みにじったり、他人を陥れたりすることでしか達成できないものだ。アンリが自由であればあるほどそのしわ寄せが他人に行くことになる。どんな人間も共同体の一員である以上、他人の権利を尊重することは不可欠なので、一個人の野放図な自由を許すわけにもいかない。どこかで制限を課す必要がある。アンリという存在は我々に自由の何たるかを教えてくれる。

ポーリーヌとシルヴァンヌがお似合いのカップルで、レコードをBGMにしながら水着でチークダンスしているところが絵になっていた。何よりこの2人は肌がピチピチしている。マリオンはマリオンで完璧な肉体をしていたけれど、それでもなおポーリーヌの若さには敵わなかった。本作はポーリーヌ演じるアマンダ・ラングレの若さを永遠に刻みつけた映画と言えるだろう。その水着姿は至高の領域に入っている。