海外文学読書録

書評と感想

舛田利雄『「無頼」より 大幹部』(1968/日)

★★★★

渡り者の藤川五郎(渡哲也)が水原一家のために上野組の杉山(待田京介)を短刀で刺す。五郎と杉山は少年鑑別所以来の幼馴染だった。3年後、刑務所を出た五郎は上野組のやくざに絡まれていた雪子(松原智恵子)を助ける。雪子は五郎に惚れるのだった。再び水原一家の世話になった五郎は猛夫(浜田光夫)から兄貴分のように慕われる。猛夫の実兄・勇(川地民夫)は上野組に所属しており……。

原作は藤田五郎『無頼―ある暴力団幹部のドキュメント』【Amazon】。

無頼シリーズ第1弾。

黒い革ジャンを着た五郎はカタギとは相容れないやくざであり、白のイメージカラーを与えられた雪子は純情を体現したような淑女である。色で人物を象徴させるのは映像メディアの強みだろう。五郎に惚れた雪子は相手がやくざと知りながらも添い遂げたいと願う。それに対し、雪子を危険に巻き込みたくない五郎は彼女を拒絶する。当初、この黒と白は交わらない。五郎のストイシズムは徹底していて、素人娘に手を出さないことを信条としていた。女は金で買える玄人がいい。そんな風に嘯いている。五郎が雪子を突き放すのは彼なりのやさしさである。雪子は上京したばかりの世間知らずで、やくざと関わることがどういうことなのか分かっていないのだから。しかし、それでも雪子は五郎について行きたい。たとえ危険に晒されても一緒にいたいと思っている。黒のやさしさと白の純情。2つがぶつかるところに男が理想とするロマンがある。

旧来的なやくざ映画の主人公はちゃんと筋を通す。お世話になった人のためには命懸けで働くし、仕事と友情の狭間に立たされたときは彼なりの答えを出す。人を助けるために指を詰めることも辞さない。そして、仲間が殺されたら相手が誰であろうと報復する。普通はやくざの群れに一人で討ち入りなんてしないものだが、やくざヒーローの条理は常識を超えるのだ。仲間の無念を晴らすことは命を懸けるに値するし、そのためなら犬死にしても構わない。後のやくざ映画ではこういうヒロイズムが否定されるが、ファンタジーとしての任侠が魅力的なことには変わらない。現実離れした理想だからこそ引き付けられる。最後に討ち入りする様式美がたまらなく愛おしい。

討ち入りの演出がとても良かった。ナイトクラブの歌手(青江三奈)が歌謡曲を歌うなか、無音でアクションが繰り広げられる。五郎もやくざ連中も短刀を得物にして動き回り、血塗れになっている。実は討ち入りの前、五郎は水原一家の組長(水島道太郎)から拳銃を進呈されたが、受け取りを拒否した。徹底した短刀へのこだわりである。どう考えても銃のほうが殺傷能力が高いというのに。ともあれ、この短刀アクションは時代劇のチャンバラのようで見栄えがする。時に切りつけ、時に突き刺す。そして、数の不利を補うために足を使う。その身体性がたまらない。

主演の渡哲也は孤高のやくざが似合っている。ちょっとイキった感じの喋り方がいい。また、弟分を演じた浜田光夫は、持ち前のベビーフェイスゆえに弟分役が板についている。彼は川地民夫の弟役も務めていた。そして、ヒロインの松原智恵子は相変わらず可憐である。白のイメージカラーがよく似合っていた。