海外文学読書録

書評と感想

ウィリアム・ディターレ『ジェニーの肖像』(1948/米)

ジェニイの肖像(字幕版)

ジェニイの肖像(字幕版)

  • ジョセフ・コットン
Amazon

★★★

ニューヨーク。売れない画家のイーベン・アダムス(ジョゼフ・コットン)が、セントラルパークでジェニー・アップルトン(ジェニファー・ジョーンズ)という少女と出会う。彼女と世間話をするも、住んでいる時代についていまいち話が噛み合わない。奇妙な体験をしたアダムスはジェニーの肖像を描き、それが画商に絶賛される。まもなくジェニーと再会したアダムスは、彼女がだいぶ成長していることに気づく。2人は時空を超えて出会っていた。

原作はロバート・ネイサンの同名小説【Amazon】。

時を超えた恋愛を扱ったロマンティックな映画だった。こういうテーマって、画家という職業と相性がいいと思う。なぜなら、画家はモデルの現時間をキャンバスに保存するのが仕事だから。モデルがいくら歳を取っても、描かれた肖像はそのまま。時空を超えて後世にまで残る。と、そういう時間を切り取る職業だから、自らが時を超えた恋愛をしてもおかしくない。奇妙な幻想譚といった感じで、違和感なく観ることができる。

最初に画商の元に絵を売りに行ったとき、アダムスは「絵に愛が欠けている」と婦人(エセル・バリモア)に酷評される。ところが、ジェニーの肖像を持ち込んだ際には評価が一変、婦人も相好を崩すようになった。後にジェニーの手紙で明らかにされる通り、完全な美とは人を愛することで初めて見つかるのだ。このように愛を芸術の核と見なすところもロマンティックで、これはいい世界観だなあと思える。

エセル・バリモア演じる婦人がだいぶ思わせぶりな態度をとっていたので、ジェニーの成長した姿が婦人なのだろうと早い段階で予想していた。アダムスと婦人の関わり、婦人の一挙手一投足、それらはすべて伏線なのだと思っていた。ところが、終盤になってそれが大きな間違いであることが判明してびっくり。婦人の存在はいったい何だったのか、と首を傾げることになった。これはミスディレクションを狙ったのかもしれないし、何か別の意図があったのかもしれない。思い返すに不思議な感じがするのだった。

少女から成年まで、ジェニファー・ジョーンズが幅広い年齢を演じるのは、当時としては挑戦的だったと言える。現代だったら特殊メイクやCGで誤魔化すことができるけれど、70年も前ではそれも無理だった。さらに、終盤では『オズの魔法使』【Amazon】を彷彿とさせる映像上の仕掛けもあって、これも当時としては頑張っているように思える。ラストで現れるジェニーの肖像には詩情があった。また映像については、所々に絵画のようなフィルターもかかっている。本作はテクノロジーの使い方に工夫が見られて好ましい。