海外文学読書録

書評と感想

ウォルフガング・ペーターゼン『U・ボート』(1981/独)

★★★★

1941年。ナチス・ドイツの占領下にあったフランスの港から、艦長(ユルゲン・プロホノフ)率いる1隻の潜水艦U96が出航する。乗組員は若者ばかりで、ヴェルナー(ヘルベルト・グレーネマイヤー)という従軍記者も搭乗していた。U96の任務は、大西洋を航行する連合国の船を攻撃すること。ところが、その任務は困難を極めるのだった。

ラストは余韻があって素晴らしかったけれど、さすがに3時間半は長すぎた。通常の戦争映画とは違って、密閉された艦内が舞台だから尚更である。ほとんどのシーンでむさ苦しい男たちが狭い空間で身を寄せ合っているため、絵面的にはすこぶる地味だ。しかしながら、鑑賞後しばらくしたらそういう陰気臭さも記憶から消し飛んでしまい、「終わりよければ全てよし」という気分になった。長尺だからこその充実感があるというか。こんな心境になるとは自分でも不思議だ。

本作を観て駆逐艦は潜水艦の天敵だということを理解した。僕はおたくのくせに軍事知識が皆無なので、この事実を知れて得をしたかもしれない。潜水艦が駆逐艦に見つかったときの絶望感は半端なくて、とにかく上から機雷を落とされまくる。しかも、その精度がなかなか高いのだから恐ろしい。U96は何度か爆発に巻き込まれて損傷している。駆逐艦と対峙したときはひたすら防御に徹していて、反撃する暇はこれっぽっちもない。基本的には深く潜って静かにやり過ごしている。思うに、この映画は視点がU96のメンバーに寄り添っていて、敵が何を考えているのか分からないから不気味なのだ。しかも、向かってくる駆逐艦はけっこう優秀っぽい。この場面は狩られる側の恐怖が味わえる。

それにしても、U96は相当なダメージを負っているのによく沈没しないものだと感心する。何度も機雷の爆発に巻き込まれて損傷しているし、深く潜ったときは水圧で勢いよく部品(ボルト?)が飛び出している。潜水艦って意外と頑丈なのだろうか? あれが本来の姿なのか、それとも作劇上の都合なのか、素人の僕には判断がつかなかった。

ラストは意表を突いていて、そのあっけなさはもはや哲学の域だった。あれだけの苦労の末に生き延びて、安心しきったところでこの仕打ちとは……。しかし、これが戦争であり、我々の人生も往々にしてこんなものなのである。生きるか死ぬかは時の運。人生とは儚いものだ。