海外文学読書録

書評と感想

2018年に読んだ274冊から星5の15冊を紹介

このブログでは原則的に海外文学しか扱ってないが、実は日本文学やノンフィクションも陰でそこそこ読んでおり、それらを読書メーターに登録している。 今回、2018年に読んだすべての本から、最高点(星5)を付けた本をピックアップすることにした。読書の参考にしてもらえれば幸いである。

評価の目安は以下の通り。

  • ★★★★★---超面白い
  • ★★★★---面白い
  • ★★★---普通
  • ★★---厳しい
  • ★---超厳しい

 

2003年に京都大学で行われた講義録。各作品をあらすじに沿いながら読み解いている。

講義に使われているのは以下の11作。

取り上げている作品は硬派だが、講義の内容は初心者向けで分かりやすい。これから本格的に海外文学を読んでいこうという人にお勧め。特に『アンナ・カレーニナ』の項は、『ナボコフロシア文学講義』【Amazon】と読み比べてみると面白い。評価や着眼点がまったく違うところが参考になる。

アンナ・カレーニナ』は、不倫に走った人妻が最後に汽車に飛び込んで、自殺を遂げる話です。しかも汽車に轢かれると無惨な姿になることは、物語の初めの頃、ヴロンスキーとアンナが最初に出会った場面で、ヴロンスキーが凄惨な轢死体を目撃するという形で書いてあるのです。最初に仕込みがしてある。「汽車で死ぬというのは、こういうことだ」と陰惨な轢死体を見せたうえで、話を最後まで持っていって、同じ状況にヒロインを落とし込む。これはあざといとぼくは思います。
不倫に走った人妻は結局こういう目に遭うというメッセージと、田舎で誠実に働いている農場主はいい妻を貰えて子供は幸せになるというメッセージ。単純過ぎます。しかもこのよく働く農場主は明らかにトルストイ自身を想起させる。(p.122)

これはなかなか鋭い見解だと思う。

 

上下巻。

本書の内容は以下の引用の通り。

私が本書で取り組もうとしているのは、家庭内から地域、異なる部族や武装集団同士、さらには国家間にいたるまで、さまざまな規模における暴力の減少という問題である。もしそれぞれの規模における暴力の変遷の歴史が、独自の軌跡を描いているのであれば、別々の本を書かなければならなかったところだ。しかし私をくり返し驚かせたのは、あらゆる規模の暴力における世界的な傾向が、今日の視点から見て下降しているということだった。(上 p.14)

上下巻合わせて1300頁近くある大著で、上巻は主に歴史学の見地から、下巻は社会学脳科学・心理学の見地から、人類史における暴力の減少を論じている。ビル・ゲイツがオールタイム・ベストに挙げた本だけあって、その面白さは折り紙つき。幅広い学問領域を横断しているため、知的好奇心が刺激される。

 

つまるところ時々の戦争は、国際関係、地域秩序、当該国家や社会に対していかなる影響を及ぼしたのか、また時々の戦争の前と後でいかなる変化が起きたのか、本書のテーマはここにあります。(p.8)

中高生に向けた講義録。昨年読んだ『戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗』【Amazon】には蒙を啓かれたが、その前著にあたる本書も負けず劣らずの良書だった。本書の柱は、日清戦争日露戦争第一次世界大戦満州事変と日中戦争、太平洋戦争の5項目。日本がどのようにして戦争に突入していったのかを分かりやすく解説している。教科書では教えてくれない、日本の近現代史の細部を知りたい人にお勧め。

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