海外文学読書録

書評と感想

『ブラザーズ・クエイ短編集Ⅲ』(1990/英=仏,1991/英,2000/英,2003/英)

★★★★

短編集。「櫛(眠りの博物館から)」、「人為的な透視図法、またはアナモルフォーシス(歪像)」、「不在」、「ファントム・ミュージアム―ヘンリー・ウェルカム卿の医学コレクション保管庫への気儘な侵入」の4編。

プライム・ビデオで見れるぶんは全部見た。どれも眼福だった。ブラザーズ・クエイの作品は美術館や博物館の面白さを映画にした感じなので、積極的には勧めづらい。とはいえ、この作家性は病みつきになる。

以下、各短編について。

「櫛(眠りの博物館から)」。実写の女性と人形の男の子。女性は寝ている。男の子は梯子を登っている。夢の話なのでフロイトを援用したくなるが、それはともかく、なかなか梯子を登れない男の子がもどかしい。確かに夢の中って何かアクションを起こそうとしても思い通りに動けない。そして、櫛で髪を梳くのは目覚めの儀式。外の夕暮れが美しい。

「人為的な透視図法、またはアナモルフォーシス(歪像)」。アナモルフォーシスの解説。アナモルフォーシスは真実を秘めた芸術で、目の錯覚を利用して見かけの下の真実を表現する。芸術の鑑賞にも啓示が訪れる瞬間があるのだ。小説を読んでいると確かに実感する。ただ、最近の小説は全部説明してしまうから物足りない。読書離れを反映したお粥みたいな文学が多いのである。だから21世紀文学はつまらない。

「不在」。ゴシックホラーっぽい。しかも、アメリカン・ゴシック。書くという行為をここまで不気味に表現しているのがすごい。ただ、今回はだいぶ音楽(ノイズミュージック)に寄りかかっていて、映像よりも音楽のほうが印象に残る。元々ブラザーズ・クエイは音楽を重視していたが、今回はそちらに振り切れている。

「ファントム・ミュージアム―ヘンリー・ウェルカム卿の医学コレクション保管庫への気儘な侵入」。人体への興味は僕も少なからず持っている。解剖図や人体模型は一種のアートではないか。医者にはなりたくないが、医学部で人体の勉強だけしたい。

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