★★★★
短編集。「ストリート・オブ・クロコダイル」、「失われた解剖模型のリハーサル」、「スティル・ナハト―寸劇」、「スティル・ナハト2―私たちはまだ結婚しているのか?」、「スティル・ナハト3―ウィーンの深い森の中」、「スティル・ナハト4―お前がいなければ間違えようがない」の6編。
ブラザーズ・クエイはアメリカ出身の作家だが、描かれる世界は社会主義国家を彷彿とさせる。予備知識なしで見たら東欧の作家と勘違いするくらい。
以下、各短編について。
「ストリート・オブ・クロコダイル」。ブルーノ・シュルツ「大鰐通り」をモチーフにしている。懐中時計の中身が肉とか、人間みたいな豆電球とか、相変わらず世界観がすごい。一方、人間の造形はおとなしめで、男は石灰石みたいな肌をし、子供はツルツルの愛らしい顔をしている。綿毛や頭パッカーンなどは監督の拘りだろうか。特徴的なのがネジや糸の動きで、機械文明的な美術は生産の苦しみを想起させる。
「失われた解剖模型のリハーサル」。バーコードから始まる線の連鎖に引き込まれた(画面がモノクロなのはバーコードに合わせたのだろうか)。壁紙も線なら服も線、布団の柄も線。部屋の中は線に支配されている。そして、本作はエロスに接近している。
「スティル・ナハト―寸劇」。砂鉄が出てくる。これが草のようであり黴のようであり、その集合的な存在に神秘を感じる。スプーンの大量出現も見応えがあった。
「スティル・ナハト2―私たちはまだ結婚しているのか?」。ウサギと女の子。女の子の質感が人形ではなく人間っぽい。足も目も本物ではないか。
「スティル・ナハト3―ウィーンの深い森の中」。手と松ぼっくりと銃弾。最近は松ぼっくりを見ると『ゆるキャン△』を思い出すようになった。キャンプするとき松ぼっくりを火種にするから。それと、手はそれだけで存在すると不気味だということが分かった。吉良吉影も不気味だったし。
「スティル・ナハト4―お前がいなければ間違えようがない」。「スティル・ナハト2」のウサギと女の子が再登場する。鬼みたいなのが鍵穴を覗いてたけど、覗きというのは人間の根源的な欲求だと思う。神が人間に与えた悪徳。