海外文学読書録

書評と感想

川島雄三『銀座二十四帖』(1955/日)

★★★★

京極和歌子(月丘夢路)は少女時代に奉天で流浪の学生に肖像画を描いてもらっていた。彼の記憶はおぼろげで、肖像画にはGMと署名してある。和歌子はGMと再会したがっていた。一方、花屋のコニイ(三橋達也)はその件について何か心当たりがあり、独自にGM探しに動く。そんななか、大阪から和歌子の姪・雪乃(北原三枝)が上京してくる。彼女は路上の絵描き(大坂志郎)に興味を持ち……。

ミステリー仕立てでなかなか面白かった。最初は人情ものかと思っていたら、あれよあれよと裏社会に踏み込んでいって、最後は犯罪映画みたいになっている。さらに、東京の風景もふんだんに織り込んでいて歴史的価値が高い。当時の東京は今と比べて建物がスカスカで、まるで地方都市みたいだった。個人的にはこれくらいの町が住みやすそうである。高度経済成長期の入口に立った古き良き東京を堪能した。

森繁久彌が主題歌とナレーションを担当している。このナレーションがまたユーモラスで、饒舌な語り口はまるでテレビのようだった。テレビの本放送は1953年からである。ただ、この語り口はテレビよりもニュース映画から影響を受けてそうだ(大元は落語だろう)。一般の映画ではなかなかお目にかかれない語り口である。また、本作には大阪で野球観戦するシーンがあるけど、こちらは実況の仕方がラジオっぽい。現代人からすると一周回って新鮮だった。

雪乃役の北原三枝が輝いている。当時22歳。溌剌とした若さが眩しかった。動きは軽やかだし、モデルのようなポージングも決まっているし、何より服装がお洒落だ。ミスコン大阪代表という設定だけあって、華やかなモダンガールといった佇まいである。メインヒロインの月丘夢路が落ち着いた熟女だけに、なおさら若さが輝いている。北原三枝は5年後に石原裕次郎と結婚して女優を引退しているわけで、一瞬の煌めきに思わずため息をついた。

野球選手を演じた岡田眞澄はこの年に俳優デビュー。当時20歳である。脇役にしておくにはもったいないほどのイケメンだ。現代の俳優だと真剣佑に相当するだろう。岡田眞澄といったらファンファン大佐のイメージだったので、このイケメンぶりには目を丸くした。

「ブルってる」や「三国人」という言葉が普通に使われているところも面白い。石原慎太郎の「三国人」発言はこの世代にとっては当然の語彙だったわけだ。また、原子力の扱いも時代を感じさせるもので、ラスボス(河津清三郎)が原子力にパワーを見出しているのに対し、町中では原子力の平和利用を訴える活動が行われている。ストーリーも戦時中の出来事が現代に影響を及ぼしていて、戦争の爪痕が垣間見えた。

全体的にモダンでスタイリッシュな雰囲気であるが、途中、和室でおじさんたちが酒盛りするシーンがあって、そこは紛れもなく昭和だった。ちゃぶ台、ビール瓶、酌をする女たち。こういう光景も今は昔になってしまった。