海外文学読書録

書評と感想

高橋栄樹『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』(2020/日)

★★★

2015年、坂道シリーズ第2弾として欅坂46が結成。平手友梨奈がセンターを務める。以後、2020年に脱退するまで平手はセンターであり続けた。平手の脱退と同じ年に欅坂46は活動を休止し、グループ名を新たに再出発する。

本当はアイドルに興味ないのだが、暇潰しに嵐のライブ・フィルム【Amazon】を見たら思いのほか良かったので本作も見ることにした。

欅坂46については予備知識がゼロなので、途中まで何を表現しているのか分からなかった。どうやら平手友梨奈という天才がいて、彼女を中心としたドキュメンタリーらしい。アーティストの孤独みたいなものが描かれている。周囲のメンバーはインタビューで平手のすごさを語っているし、実際、ライブ映像を見ると驚異的なパフォーマンスである。でも、何か嘘臭い。インタビューなんか台本に書かれたセリフを読んでるんじゃないかと勘繰ってしまう。とにかくストーリーが奇麗すぎるのだ。これだけ人数が多いと全員にスポットを当てられない。だから物語のコアを設定してそのコアについて語ろう。そうしたほうが奇麗にまとまる。インタビューにせよ、スタッフとの対話にせよ、幕間劇はどれも茶番のようである。

ところが、ライブ映像は半端なくすごい。欅坂46はどうやらダンスが主体のグループらしく、ライブのときは歌わない(口パクすらしない)代わりに激しいダンスを披露している。これがまた大迫力なのだ。人数の力というのがあって、大所帯による一糸乱れぬダンスには目を奪われる。中でもセンターを務める平手友梨奈は別格だ。彼女だけ異次元のような存在感である。鬼気迫るような表情はまるで何かに取り憑かれたかのよう。一人だけアーティスティックなコンテンポラリーダンスを踊っている。これを見たら彼女が天才と崇められるのも納得だ。ドキュメンタリーとしてのアングルは嘘臭いものの、ライブのパフォーマンスは紛れもなく本物で、アイドルの真実はステージの上でしか見られないのだと思う。そういう意味でインタビューはどこか空々しい。ライブのすごさによって浮いてしまっている。

ステージ上のアイドルは華々しいが、実は兵隊に過ぎす、上には指揮官のおじさんがいる。プロデューサーがおじさんなら、指導するのもおじさん、メンタルケアするのもおじさんである。女子だけの華々しいアイドルグループ、その実態が資本主義社会(=男社会)に包摂された操り人形であることが窺えて居心地が悪かった。こういう夢を与える商売って、後ろに控える電通マンが見えると途端に萎えてしまう。所詮はおじさんの手のひらの上で踊らされているのか、と。

平手友梨奈がグループから距離を置くとメンバーに打ち明けるシーン。カメラが椅子の背もたれに焦点を合わせ、後ろにいるメンバーをぼかしている。これがどうにも洒落臭い。こういった演出も電通マン的である。