海外文学読書録

書評と感想

朴性厚『劇場版 呪術廻戦 0』(2021/日)

★★★

幼少期。乙骨憂太(緒方恵美)は幼馴染の里香(花澤香菜)と結婚の約束を交わしたが、里香が交通事故で死んでしまう。それ以来、里香が呪いとして乙骨に取り憑いた。長じてからは事件を起こして秘密裏に処刑されそうになった乙骨だったが、呪術高専の教師・五条悟(中村悠一)がそれを助ける。乙骨は呪術高専に通って鍛錬すると同時に里香の呪いを祓おうと決意する。そこへ呪詛師の夏油傑(櫻井孝宏)が容喙してきて……。

原作は芥見下々の同名漫画【Amazon】。

制作はMAPPAだが、予想よりもリッチなアニメーションになっていて驚いた。同じMAPPAでも、昨年放送された『チェンソーマン』【Amazon】とは力の入れようが違う。もちろん、『チェンソーマン』がテレビシリーズなのに対し、本作は劇場版だから当然だろう。しかし、そもそも『呪術廻戦』はテレビシリーズもリッチだった。『チェンソーマン』は原作のスカした感じを上手く表現していたが、それでも『呪術廻戦』ほど優遇されてなくて不憫に思う。

序盤の乙骨は碇シンジみたいにおどおどしていて、緒方恵美がキャスティングされたのも納得である。乙骨は里香が死んで以来、ずっと受け身で生きてきた。彼は大いなる力を宿しているがゆえに、それを使って人を傷つけるのを拒んでいる。だから積極的に人と関わりたくなかった。本作はそういう自閉的な少年が、学校生活を通して自己肯定感を上げていく。誰かと関わって生きていいという自信を得ていく。彼のストーリーは極めて王道で、王道であるがゆえに確固たる快楽がある。結局のところ、自己肯定感とは人と関わり、信頼関係を構築することでしか得られないのだ。ひきこもっていたら一生閉じたままである。そういう意味で学校という場が上手く機能していた。

敵役の夏油は度し難い選民思想の持ち主である。彼は呪力のない一般人をサル呼ばわりし、呪術師による呪術師のための世界を作ろうとしていた。強者が弱者に適応する社会に不満があったのである。この辺はサドやニーチェを彷彿とさせるものがあり、エンタメにありがちな分かりやすい「悪」だ。面白いのは、そんな夏油が悪のカリスマになっているところだろう。彼は宗教団体の長として君臨し、数名の仲間を率いている。遠大な野望を持った「悪」も一人では何もできない。事を為すには同士を集めて組織化する必要がある。悪人も一人では通り魔しかできないが、複数人集まれば社会を転覆させることができるのだ。数の力に自覚的なところがクレバーで、多くのエンタメ作品に出てくる悪の組織も、作劇の都合だけに収まらないリアリティがある。

序盤で五条悟が「愛ほど歪んだ呪いはないよ」と乙骨に言う。この時点では里香の愛――重すぎる愛――のことだと思われたが、終盤で見事に反転する。このどんでん返しが面白かった。里香のヤンデレみたいな言動がミスディレクションになっていて心憎い。