海外文学読書録

書評と感想

新海誠『君の名は。』(2016/日)

★★★★

17歳の男子高校生・立花瀧神木隆之介)は東京の四ツ谷で暮らしていた。一方、17歳の女子高校生・宮水三葉上白石萌音)は飛騨地方の糸守町で暮らしている。そんな2人がどういう因果かたびたび入れ替わることに。当初はその状況に反発していた2人だったが、いつしか相手に好意を抱くようになる。そんな矢先、ティアマト彗星が地球に接近してきて……。

新海誠の映画はジメジメした陰キャアニメという感じで苦手だが、本作は例外的に好きな映画である。いつも通りのボーイミーツガールものでありながら、エモーションを最大化する手並みに長けていて、エンターテイメントとして優れている。かつてヒッチコックは言った。「映画づくりというのは、まず第一にエモーションをつくりだすこと、そして第二にそのエモーションを最後まで失わずに持続するということにつきる」と(『定本 映画術 ヒッチコックトリュフォー』【Amazon】)。本作はそのお手本のような映画である。

男女の出会いなんてどれも運命なのだが、本作はそれが極めて劇的である。というのも、男女が入れ替わってお互いの生活を体験するのだから。おまけに災害というビッグイベントもある。お互いのことが分かりかけた途端、災害によって有無を言わさず喪失してしまうのだ。その際、時間差トリックを使ったのは見事である。入れ替わったときにカレンダーを見ないのは不自然とはいえ、それは入れ替わりによって生まれる巨大なエモーションに比べたら瑕瑾にもならないだろう。「結び」というキーワードが示すように、2人は時空を超えて結ばれている。なぜこの2人が選ばれたのかは分からない。しかし、それは一般的な男女の出会いがそうであるように、2人の出会いも運命なのである。

そして、そんな運命の前に別の不可避的な運命が顔を出す。それは災害だ。三葉の時間軸からすればこれから起きる出来事であり、瀧の時間軸からすれば既に起こった出来事である。通常だったら過去は変えられない。しかし、時空を超えて結ばれた2人だったら変えることができる。この設定が絶妙で、瀧が口噛み酒を飲んでから2人が直接会話するまでのシークエンスはエモーションを最大化にした見せ場だ。一旦は失われたものが元に戻るかもしれない。そういう希望を持たせてくれる。災害とその克服は、男女の間の喪失と回復に対応しているわけで、このイベントを織り込んだことで2人の関係が劇的になっている。

すれ違うと思わせて再会するラストも上手い。電車ですれ違うシーンも階段ですれ違うシーンもドキドキ感がある。しかし、2人には強力な運命が、神がかった「結び」があるのだった。本作は最後までエモーションを持続させているところが素晴らしい。SF要素を巧みに用いた極上のエンターテイメントだった。

なお、本作には小説版もある。