海外文学読書録

書評と感想

ヘンリー・ハサウェイ『ベンガルの槍騎兵』(1935/米)

★★★

英領インド。ストーン大佐(サー・ガイ・スタンディング)率いる槍騎兵隊にはマクレガー大尉(ゲイリー・クーパー)という好戦的な問題児がいた。そこへ2人の新任将校がやってくる。一人は近衛兵隊出身のフォーサイス中尉(フランチョット・トーン)。もう一人は士官学校を卒業したばかりで大佐の子息のドナルド・ストーン少尉(リチャード・クロムウェル)。ある日、ドナルド・ストーン少尉が敵部族を率いるモハメド・カーン(ダグラス・ダンブリル)の本拠地へ誘拐され……。

インドを舞台にした西部劇みたいな趣。異国情緒があってなかなか新鮮だった。インドってヒンドゥー教徒が多いイメージだったけれど、本作の敵はイスラム教徒である。

ドラマとしてはストーン大佐とドナルドの親子関係が軸にあって、それにマクレガー大尉が何かと容喙している。親子の情を出さない大佐に対し、「大佐は冷酷すぎる」と詰め寄っているのだ。はっきり言って余計なお世話だし、息子だからといって贔屓しないのは軍人として当然だろう。むしろ、傍から見て大佐は親子の情を出しすぎである。2人きりで対面するシーンでは父親の顔を露骨に覗かせていたし、その後は息子を危険な任務から外している。また、猪狩りでは無茶をした息子の尻拭いをしていた。大佐は息子が前線に来るのを望んでおらず、何かと便宜を図っている。その後、ドナルドが誘拐されてからは公人として断固たる態度に徹していたけれど、それまではむしろ私人として振る舞っていたのである。だからマクレガー大尉のお節介は的外れだし、はっきり言って鬱陶しかった。

外国に駐在する将校が色仕掛けされるのは、今も昔も変わらぬインテリジェンスの基本のようだ。現在でも、外務省の職員がよくこういうことをされている。しかも、もっと露骨なハニートラップだ。それに比べると、本作は慎ましいと思う。だいたい狙われるのは異性に免疫のない若者であり、ドナルドもそれにうっかりはまっている。相手の女がこれまた絶世の美女で、どういう出自なのか気になった。明らかにインド系ではないし、むしろ英米系に見える。イスラム世界の奥深さを目の当たりにした。

終盤でマクレガー大尉が機関銃を抱えて乱れ撃ちするシーンは、後世のアクション映画を彷彿とさせる。アーノルド・シュワルツェネッガー主演の映画みたいな。こういう派手なガンアクションが戦間期からあったことに驚いた。

本作で一番印象に残っているのが、マグレガー大尉、フォーサイス中尉、ドナルド・ストーン中尉の3人が、敵の捕虜になったシークエンス。拷問を受けたドナルドが壁越しに叫び声をあげるのを2人が聞いて、「モントリオールの歯医者を思い出す」と言っていたのが可笑しかった。さすがベテランだけあって、こういうときでもユーモアを欠かさないでいる。