海外文学読書録

書評と感想

ウィリアム・A・ウェルマン『ボー・ジェスト』(1939/米)

★★★

ボー(ゲイリー・クーパー)、ジョン(レイ・ミランド)、ディグビー(ロバート・プレストン)のジェスト3兄弟は養子だった。そのうち、ジョンは幼馴染のイソベル(スーザン・ヘイワード)といい関係になっている。ある日、叔母が持つ宝石「青い水」が衆人環視のもと何者かに盗まれた。それを機に3兄弟はフランス外人部隊に入り、砂漠でアラブ人と戦うことになる。部隊にはマーコフ軍曹(ブライアン・ドンレヴィ)という荒っぽい上官がいて……。

原作はP・C・レンの同名小説【Amazon】。

よく出来たプロットの冒険映画だった。冒頭に砦をめぐる奇妙な状況が提示され、終盤でその辻褄合わせをするところがスリリングである。なぜ、砦の兵士たちは壁の隙間にもたれかかって死んでいたのか? なぜ、無人なのに銃撃が2回あったのか? またそれ以外にも、宝石「青い水」を巡る謎がある。誰がどういう動機で盗んだのかが分からないのだ。おそらく犯人は3兄弟のうちの誰かである。しかし、3人とも他の兄弟を庇うため、自分が盗んだと言い張ってきかない。このように本作は複数の謎で引っ張っていく構成になっており、結果としてウェルメイドな娯楽映画になっている。

プロットの妙を感じさせるところは他にもあって、それは軍隊内の反乱を収めるシークエンスだ。大多数の兵士はマーコフ軍曹の横暴に憤り、反乱を起こすことを決意する。50対1なら勝てるという算段だ。しかし、ボーとジョンの兄弟はそれに反対し、多数派から睨まれることになる。ここで兄弟は命の危機に見舞われるのだった。これをどう切り抜けるのかと思ったら、なかなか巧妙な手段だったので感心した。さらに、その後形勢が逆転した軍曹は、反乱を企てた兵士たちを処刑しようとする。方法は銃殺だ。射手には兄弟が選ばれも、2人はその任務を拒否する。今度もまた命の危機に見舞われるのだった。これをどう切り抜けるのかと思ったら、またもや巧妙な手段である。そして、物語はそこから怒涛のクライマックスへとなだれ込み、前述の辻褄合わせが行われる。まるでパズルみたいな映画で感心した。

マーコフ軍曹を演じたブライアン・ドンレヴィは、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされていたけれど、それも納得の存在感である。彼は兄弟の宝石を狙う悪漢であり、出世欲の強い野心家であり、優秀な現場指揮官でもある。自我が強すぎて狂気の領域に入っているような感じだ。中盤以降は、そんな躁病気質の下士官が縦横無尽に活躍している。はっきり言って、主演の3兄弟よりも目立っていた。