海外文学読書録

書評と感想

サイモン・カーティス『黄金のアデーレ 名画の帰還』(2015/米=英)

★★★

1998年のロサンゼルス。ナチの迫害から逃れてオーストリアから亡命してきたマリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)が、弁護士のランディ・シェーンベルクライアン・レイノルズ)にある依頼をする。それはウィーンの美術館に所蔵されている「黄金のアデーレ」の返還交渉だった。元々その絵はアルトマン家のものであり、ナチに強奪されたものだという。それと平行して、若き日のマリア(タチアナ・マスラニー)の物語が語られる。

実話を元にしてるらしい。映像はなかなか見栄えがするし、物語もいい感じではある。けれども、演出が典型的なハリウッド映画だったのが残念だった。

回想シーンはフィルターをかけて色調を変えているのだけど、これがモノトーン風の味わいがあって心地よかった。現代のくっきりした映像とは明確に区別される形で表現されている。だから時系列が切り替わると一目瞭然だ。観ていて混乱することがない。おまけに過去も現代もオーストリアのレトロな建築物が目を引いて、ヨーロッパって遠くから眺めるぶんにはいい場所だと思う。治安が悪いから絶対に住みたいとは思わないけれど、観光では是非とも行きたい地域だ。

若き日のマリアがナチの憲兵から逃げるシーンは、劇的すぎてどこか作り物めいていた。また、現代のマリアが心変わりしてランディと衝突するシーンも、劇的すぎて作り物めいている。どちらも話を盛っているのだろう。こういう余計なサービス精神が、典型的なハリウッド映画という感じで好きになれない。せっかく抑えた映像表現をしているのに、これでは台無しではないか。本作は映像と演出が釣り合ってないように感じた。

中盤ではアメリカ国内で外国(オーストリア)相手に裁判をする。マリアから奪った絵を返還しろという裁判だ。国際裁判ではなく、あくまで国内の裁判である。だから、どれだけ効力があるのかは分からない。ともあれ、僕はこれを見て最近の日韓関係を連想した。すなわち、徴用工訴訟問題である。あれも韓国国内の裁判によって、日本の企業に賠償命令が下されたのだった。なるほど、こういう国境を跨いだいざこざ、歴史をめぐるいざこざって他人事ではなかったのだ。本作のリメイクが韓国で作られてもおかしくないと思う。

本作のピークは終盤で、思い出の場所に立ったマリアが、回想の世界にそのまま入り込む。これがとても素晴らしかった。過去と現在が溶け合うその絵面は幻想的で美しい。映画を観る醍醐味が味わえる。