★★★
ポルノ小説家の「僕」が、ダンスホールで知り合った女と肉体関係を結んで妊娠させる。女は「僕」のことを愛していて結婚を迫ってくるが、「僕」は女に恋愛感情を抱いていなかった。一方、「僕」の伯母は病気で入院していて死にかけている。
芸術と人生を混同してはいけない、と彼は警告を発した。自然でないからこそ芸術は芸術なのだ。人生は偶然の積み重ねだ。芸術は原理の発見だ。偶然が思想や想像へと発展することはめったにないから、偶然を想像へと発展するように作り出し、新しく産み出さなければならない。(p.31)
かつて評論家の斎藤美奈子が、「妊娠小説」【Amazon】というジャンルを打ち立てたけれど、本作はそのど真ん中をいくバリバリの妊娠小説だった。
つまり、30歳の「僕」が、38歳の女を孕ませてしまうわけだ。女はしつこく結婚を迫るのだけど、「僕」は愛してないからと言って断固拒否する。女が「妊娠したかもしれない(生理が遅れている)」と言ってきたときは検査するように勧め、いざ妊娠が確定したときには堕胎や養子に出すことを提案する。「僕」は責任を取るために出産までの間は籍を入れると言い出し、出産後は離婚すると宣言している。女と添い遂げる気はまったくなし。38歳という後戻りの効かない相手にこの仕打ちとは、まったく最低の男である。
しかも、この渦中のなか、「僕」は新しい女に惚れて彼女にアタックするのである。相手は自分より年下の20代だ。38歳のことは愛してないからポイ捨てしてるのに、20代の女には結婚を視野に入れた欲望を露わにしている。結局、男というのは若い女が好きなのだなあと呆れてしまった。
ところで、赤ん坊の出産と同時に伯母の死が展開するところはいかにも「文学あるある」だと思う。生と死を対置するベタな手法。妊娠小説という括りを抜きにしても、わりと構築的な小説だとは思うので、とりあえず読んで損はしなかった。
なお、ジョン・マクガハンは『湖畔』【Amazon】がお勧め。こちらは静謐な傑作である。