海外文学読書録

書評と感想

フランソワ・トリュフォー『ピアニストを撃て』(1960/仏)

ピアニストを撃て(字幕版)

ピアニストを撃て(字幕版)

  • シャルル・アズナヴール
Amazon

★★

パリ。場末のカフェでピアノを弾くシャルリ(シャルル・アズナヴール)の正体はアルメニアの天才ピアニストだった。今は名前を変えて生活している。ある日、彼の元に兄のシコ(アルベール・レミー)がやってくる。シコは2人組のギャングに追われていた。シャルリはカフェの裏口からシコを逃す。一方、シャルリは女給のレナ(マリー・デュボワ)といい仲になり……。

原作はデイビッド・グーディス『ピアニストを撃て』【Amazon】。

フィルム・ノワールへのオマージュらしい。全体的にぎこちなくて見ていて困惑した。特にダイアローグの面白さに比べるとモノローグはつまらなく、両者のギャップは何なのだろうと首を傾げてしまう。モノローグは小説の地の文を思わせるところがあり、映画という外面的なメディアと食い合わせが悪い。たびたび入るモノローグによってそれまでの自然な流れが中断され、人工物のような不自然な磁場を形成している。ダイアローグが魅力的なだけにこのちぐはぐさは大きい。モノローグは人物の内面を説明する有効な手段だが、一方でそれは外面的な表現を省いた手抜きとも言えるわけで、いくらB級映画のオマージュでもそれはないだろうと思った。

ダイアローグは饒舌で面白い。冒頭でシコが行きずりの男と雑談するところからして引き込まれる。ダイアローグでもっとも魅力的だったのが、シャルリがギャングに拉致されて車に乗せられるシークエンスだ。車内では後にレナも加わって和気藹々とした雑談を繰り広げている。その前にギャングが銃を見せる見せない、金を見せる見せないの駆け引きをしており、ここもダイアローグの導入部としてすこぶる魅力的だ。ふと思ったが、タランティーノが映画でよくやる雑談はトリュフォーの影響なのではないか。そう勘繰ってしまうくらい本作の雑談はよく出来ている。

後半でシャルリの過去が明かされる。テレサ(ニコル・ベルジェ)が告白するシーンは立ち居振る舞いが演劇的で、モノローグと合わせて作り物臭さを醸成していた。ただ、フィルム・ノワールにおける女の振る舞いはだいたいこんな感じのような気がする。劇的な場面であることを不自然な演技で強調しているというか。また、レナが男同士の茶番に巻き込まれて死ぬところも印象深い。銃撃戦は当人にとっては必死なのだろうが、少し離れた視点で見るととんだ茶番だ。「銃は男の最良の友」という言葉が象徴する通り、男の遊びの延長として銃撃戦が行われている。カメラはこの銃撃戦をサバゲーみたいに捉えており、命のやりとりをしているような緊迫感がない。そして、その茶番がカフェで何事もなかったかのようにピアノを弾くシャルリに繋がっている。シャルリのために身を尽くして死んだレナは報われなかった。フィルム・ノワールとは徹頭徹尾男の映画なのであり、女はどこまで行っても添え物に過ぎないのである。

劇伴について。昔の映画は劇伴の主張が強いが、そのぶん印象に残るメロディが多い。本作の劇伴もなかなか良かった。