海外文学読書録

書評と感想

ホレス・ウォルポール『オトラント城』(1764)

★★★

オトラントの領主マンフレッドには、18歳の娘マチルダと15歳の息子コンラッドがいた。羸弱な後者を溺愛したマンフレッドだったが、婚礼の日にコンラッドは巨大な兜に押しつぶされて死んでしまう。跡継ぎがほしいマンフレッドは、息子の婚約者であるイザベラに言い寄るも、謎の青年の助けもあって、彼女に逃げられてしまう。やがてオトラントに真の領主を名乗る者が現れ……。

「真の城主、容れ能わざるほど巨大になりしとき、偽りの城主とその同胞、オトラントの城を去らん」――この予言がいったい何を暗示しているのか、その解釈をよくする者はひとりとしておりません。まして、今般の婚儀との繋がりとなると見当もつきません。しかしながら謎が深ければ深いほど、矛盾が大きければ大きいほど、領民たちは婚礼と予言との結びつきをいつまでも信じるのでした。(p.9)

ゴシック・ロマンスの始祖らしい。中編くらいの長さだったけれど、なかなか濃い読書体験ができた。普段ゴシック小説を読まない僕からしたら、中世の城を舞台にしたこの小説は目新しさに溢れている。魔術師や超常現象などが普通に存在するものとして扱われているのは驚きだし、十字軍の時代を舞台にしているせいか、騎士道精神が当たり前のように出てきて感動した。当時の読者にとってはアナクロ趣味かもしれないけど、現代人の僕からしたら一周回って新しいのである。だって僕はオーソドックスな騎士道物語を読む前に『ドン・キホーテ』【Amazon】を読んでしまったから。そのせいで騎士についてはパロディの元ネタという認識しか持ってない。だから、古城と騎士の組み合わせはいいものだと無邪気に喜んだ。

農民のセオドアが実は神父の息子だったとか、そのセオドアがさる貴族の子孫でオトラント城の正当な持ち主だったとか、そういうサプライズを仕込んでいるところが小憎らしい。そもそも冒頭に分かりやすい予言を置いて、オトラントの領主が代わることを示唆するあたり、古い小説のお約束という感じがする。僕は昔の小説には昔の小説らしい振る舞いを期待しているので、このサービスぶりには満足した。冷静に考えてみればマンフレッドが気の毒だけど、本作を読むにあたっては登場人物に感情移入する必要はないのだろう。あくまで古城と騎士を中心としたゴシック的雰囲気に飲まれていればいいような気がする。

しかし、作中でマチルダを殺したのはいくらなんでもご都合主義ではないかと思う。ヒロインは2人もいらないから、片方を殺してすっきりさせようということなのだろう。おまけに彼女はマンフレッドの血筋だから、生かしておくのも座りが悪い。悪役の娘とは思えないくらい性格が良かっただけに死なすのは惜しかった。