★★★★
大統領が異例の3期目に突入し、FBIも解散させた。それに反発した州が合衆国から離反して内戦状態になる。戦場カメラマンのリー(キルスティン・ダンスト)と記者のジョエル(ヴァグネル・モウラ)は、大統領にインタビューすべくニューヨークからホワイハウスに向かうことに。老記者のサミー(スティーヴン・ヘンダーソン)と新米カメラマンのジェシー(ケイリー・スピーニー)も一行に加わる。
ジャーナリスト視点のロードムービー。上に貼ったタイトル画像で分かる通り、明らかに『地獄の黙示録』を下敷きにしている。基本的には内戦によって一変したアメリカの風景を映していくが、中には平穏を保った町もあって一筋縄ではいかない。また、戦時下のせいか頭のおかしい人間が野に解き放たれていて、一行は命の危機に晒されることになる。本作はこういった非日常を旅行者の視点で切り取っているところが肝だろう。丸腰の彼らは暴力に対して無力だ。だから銃を持った人間と対峙すると途端に緊張が走る。無秩序な世界では何が起きるか分からないわけで、地味なルックのわりに意外とスリリングだった。
赤いサングラスの男が強烈な印象を残す。彼はライフル銃を持ち、相棒と重機で大量の死体を埋めようとしている。2人でそれだけの人数を殺したのか、道端の死体を集めたのかは定かではないが、人を殺すことに躊躇いがないのは確かだ。当初はその動機が分からない。ところが、リー一行が銃を突きつけられながら出身地を答えると、赤いサングラスの男はアメリカ人らしくない者を殺害しているようだった。実際、リーの仲間で「香港」と答えた者は容赦なく射殺されている。内戦による秩序の崩壊でこういったレイシストが野放しになっているのが恐ろしい。彼はトランプ政権下におけるアメリカ人の象徴だった。
報道の仕事は記録に徹することだという。ベテランのリーは新米のジェシーにそう教える。たとえば、目の前で非人道的なことが行われても迷わずシャッターを切る。無理に助けようとはしない。それは武器を持ってない自分の手に余るからだ。記録して世に広めることがジャーナリストの仕事であり、そうすることで祖国に警鐘を鳴らすのである。リーのプロフェッショナルぶりには頭が下がるが、皮肉なことに土壇場でそれが崩れてしまう。
どれだけ非情になれるかが戦場カメラマンの資質だとすると、リーよりジェシーのほうが資質があったのだろう。というよりはベテランのリーがこの仕事に疲弊して判断を誤り、新米のジェシーは成長してこの仕事に順応したのだ。ピークにいた人間とこれからピークに達しようとする人間、両者の対比がここにある。もしリーがピークのままだったら同僚の死に動揺しなかったし、後輩を庇って銃弾を浴びもしなかっただろう。ギリギリのところで見せた弱さ――人間性――が死に直結する。こういったシナリオはよく出来ていた。
登場人物がシャッターを切るタイミングで静止画になる演出が良かった。現実を切り取るカメラマンの仕事をひと目で分からせている。また、戦争の背景を多く語らず、必要最小限に留めているところも好感が持てた。設定というのは仄めかす程度のほうが想像の余地があっていい。この辺はさすがアメリカ映画だった。