★★★
エレン(ジーン・ティアニー)が流行作家のリチャード・ハーランド(コーネル・ワイルド)と結婚する。エレンには妹ルース(ジーン・クレイン)がおり、リチャードには弟ダニ―(ダリル・ヒックマン)がいたが、エレンは夫の愛を独占すべくとんでもないことをする。一方、エレンの元婚約者ラッセル・クイントン(ヴィンセント・プライス)は地方検事になるのだった。
原作はベン・エイムズ・ウィリアムズの同名小説【Amazon】。
女性の異常心理を描いているが、後年のニューロティック・サスペンスと違って淡々としている。特にスリルを煽ったりもしない。テクニカラーの人工的な色彩と相俟っていかにも古典という感じだった。
エレンがリチャードに惚れた理由は彼が父親に似ていたからだ。エレンの父親は最近亡くなっている。エレンにとってリチャードとの出会いは渡りに船だったのだろう。彼女は婚約者がいるにもかかわらず、リチャードとの結婚を決めている。ところが、エレンは人一倍独占欲が強かった。これは後に明かされるが、彼女は父親のことを愛しすぎたゆえに死に追いやっている。その欠点は彼女の人格の本質として深く刻まれており、決して修正されることはない。むしろ段々とやることがエスカレートしている。ダニーを見殺しにしたのは受動的な行為だが、その後赤ん坊を流産させたり、自分の命と引き換えにルースを嵌めたりしたのは極めて能動的な行為だ。すべてはリチャード(=父親)の愛を独占するため。典型的なエレクトラコンプレックスである。このような図式になっているのはユングを参考にしたのか、あるいは偶然なのか。いずれにせよ、エレンのやっていることは心理学的に興味深い。
序盤に出たきり影も形も見せなかったクイントンを終盤で再登場させ、八面六臂の活躍をさせたのはよくできている。裁判のシーンはほとんど彼が主役である。検事のクイントンは被告や証人を厳しく追求する。その様子があまりに凄まじく、アメリカの刑事裁判に対して恐怖をおぼえた。僕が被告だったらとてもじゃないが耐えられないし、質問されてもびびって何も答えられないだろう。クイントンがあそこまで苛烈なのはおそらく陪審制だからで、陪審員向けに分かりやすくパフォーマンスしている。被告を「悪」と印象づけている。言ってみれば素人向けのプレゼンである。クイントンは被告を土俵際まで追い詰めるが、証人が決定的な証言をしたことですべてが覆ってしまう。こういったところもよくできていた。
リチャードにとってエレンは間違った相手で、すべてが終わった後ルースと結ばれる。本当のヒロインはルースだったのだ。しかし、ルースは曲がりなりにもエレンの妹だし、よく考えたら浮気の延長上みたいな形で結ばれている。要はハッピーエンドのための駒にしか見えない。この辺はハリウッド映画の限界に思えた。男女が結ばれて大団円というのは安直にもほどがある。
テクニカラーの映像は色味が不自然で見ていて違和感があった。特に人物の顔が人間ではなく人形に見える。カラー黎明期の徒花といった風情の色彩だった。