海外文学読書録

書評と感想

ダリオ・アルジェント『サスペリアPART2』(1975/伊)

★★★

欧州超心霊学会で講演したヘルガ(マーシャ・メリル)はテレパシーが使える超能力者。その彼女が何者かに殺された。ピアニストのマーク(デヴィッド・ヘミングス)が偶然現場を目撃する。新聞記者ジャンナ(ダリア・ニコロディ)によって自分の写真を新聞に載せられたマークは、犯人に目撃者だとバレたことで狙われることに。マークは事件を調査する。一方、彼には友人カルロ(ガブリエレ・ラヴィア)がいたが、カルロはアルコール依存症で身持ちを崩していた。

『サスペリア』の続編ではない。監督が同じというだけ。むしろ、本作のほうが製作年が早い。先に『サスペリア』が日本でヒットしたからこのような邦題がつけられた。

ミステリとしては雑だけどサスペンスとしてはなかなかいい。恐怖の煽り方が堂に入っている。そして、有名な一発ネタには驚いた。後で確認したらちゃんと映っている(とはいえ、一瞬なので言われないと気づかない)。マークが違和感を抱くのにもそれなりに説得力があった。

小道具が不気味なところが印象的だった。ヘルガを殺害するシーンでは、その前に机に置いた小道具をカメラが舐め回すように映していく。待ち針がいくつも刺さった毛糸の人形、キューピーちゃんみたいな裸の人形、複数のビー玉、そして血のついたナイフ。犯人の異常性を端的に表している。この犯人、後の殺人でも変な小道具を現場に残していくのだが、これが不合理でまったく意味が分からない。むしろ、物証から足がつくんじゃないかと心配になるほどだ。ただ恐怖を煽るために小道具が使われている。最後の最後に犯人は精神を病んでいたことが分かるのだが、それでもこの儀式的な小道具の使い方は作劇の都合にしか思えない。サスペンスを醸成する手段として割り切りっていて、後で考えると何じゃこりゃってなる。

要するに瞬間最大風速を出すことに特化しているのだ。多少粗が出ても宙吊り状態による緊張感を優先させる。殺人者が忍び寄ってくるところは確かに怖い。ゴブリンのBGMがまたいい感じなのである(『フェノミナ』は何だったのか)。ところが、細かい整合性には無頓着で、たとえば、犯人がマークの行き先を把握している理由だとか、子守唄のテープを流す理由だとかが曖昧になっている。その結果、ミステリとしては雑なのにサスペンスとしてはなかなかいい映画に仕上がっている。

犯人の動機は殺人の隠蔽であるが、別にヘルガを殺さなくても良かったと思う。あの時点で自分が殺ったとはバレてないし。むしろ、ヘルガを殺したことで芋づる式に殺しを重ねることになった。いくら何でもリスクが大きすぎる。あと、親子の愛情というのがキーになっていて、愛は条理を超えるから怖いのだと痛感した。親子共に悲惨な死に方をするところがまたいい。

それにしても、あの厚化粧はそれだけでホラーだ。夢に出てきそう。