海外文学読書録

書評と感想

『ユーリー・ノルシュテイン傑作選』(1968/ソ連,1971/ソ連,1973/ソ連,1974/ソ連,1975/ソ連,1979/ソ連)

★★★★

短編集。「25日・最初の日」、「ケルジェネツの戦い」、「キツネとウサギ」、「アオサギとツル」、「霧の中のハリネズミ」、「話の話」の6編。

ユーリー・ノルシュテイン監督の切り絵アニメーション。長さは「話の話」だけ30分で、他は10分程度である。

以下、各短編について。

「25日・最初の日」。十月革命というのはソ連の建国神話なのだろう。モノトーンに映える共産主義の赤。蜂起した民衆は赤で表現されている。ショスタコーヴィチの音楽も革命の興奮を表していて素晴らしい。当時の民衆は革命で夢を見れた。資本家の搾取から救われ、自分たちの時代が来たと喜んだ。それはすぐに打ち砕かれるのだけど。とはいえ、一瞬だけでも希望を持てたのは羨ましい。我々日本人には希望がないから。

「ケルジェネツの戦い」。14~16世紀のロシアの絵画が引用されている。絵画の登場人物があのままの姿で動いているのが面白い。しかも、オールカラーである。この回はモンタージュの使い方が巧みで、戦闘シーンの迫力を引き出していた。それと、一次産業と二次産業が賛美されるのもソ連という感じがする。肉体労働は尊いのだ。

「キツネとウサギ」。オオカミでも駄目、クマでも駄目、ウシでも駄目。力づくではキツネを追い出せなかった。そこへ満を持して雄鶏が登場。この流れだと普通は力ではなく知恵でどうにかするだろう。雄鶏は体が小さいし。ところが、力でどうにかしてしまうのだから驚く。オオカミとクマとウシは何だったのだ。こいつらのほうが明らかに戦闘力が高いだろ。それにしても、日常の些細な動きに手間をかけるところは『お兄ちゃんはおしまい!』【Amazon】を彷彿とさせる。

アオサギとツル」。ツルの口説き文句が「嫁に来ないか」なのは笑った。ワイルドすぎるだろ。ナンパ師でももう少しマシなことを言うぞ。そして本作は絵は簡素だけど、イチャイチャするときのアニメーションとか、雨の中追いかけて傘を渡すシーンとか、演出が光る。冒頭のカメラワークもなかなか凝っていた。

「霧の中のハリネズミ」。霧の中の幻想。視界が限られているからこそ、出歩くことが小さな冒険になる。手探りで出てきたのが巨木だったときは見ているこちらも驚いた。その威容ときたらもう。子供の頃の驚きに満ちた感覚を動物寓話で表現している。それにしても、コグマが可愛すぎて参った。ああいう顔をしたおじさん、たまに見かける。

「話の話」。視覚芸術の最終到達点は夢の映像化のような気がした。気の利いた監督は気づく。物語なんていらないということに。そして、印象的なショットは2つ。屋外で人間たちが団欒するショット。雨の中の林をパンしてリンゴにフォーカスするショット。どちらも美しかった。