海外文学読書録

書評と感想

京極義昭『映画 ゆるキャン△』(2022/日)

★★★

名古屋の小さな出版社で働くリン(東山奈央)。山梨の観光機構にUターン就職した千明(原紗友里)。東京のアウトドアショップに勤めるなでしこ(花守ゆみり)。山梨で小学校教師をしているあおい(豊崎愛生)。横浜でトリマーとして働く恵那(高橋李依)。大人になった5人が集まってキャンプ場作りに従事する。

原作はあfろの同名漫画【Amazon】。

日常アニメの美少女たちは歳を取らない。できるだけモラトリアムを引き延ばしつつ、時が来たら高校を卒業して終わる。それが暗黙の了解だと思っていたが、本作ではいきなり大人になっていて驚いた。しかも、高校生からいきなり24~25歳になっている。

みんな手に職をつけて堅実な生活を送っていて、落伍者が1人もいないところが意外だった。だいたい5人いたら1人くらいはニートかフリーターになっているはずである。特筆すべきは、リンやなでしこがしっかり社会人をやっているところだろう。高校時代のリンは一座のアウトサイダーで孤独を好んでいた。キャンプをするときもソロキャンが基本である。そんな彼女がすっかり社交的になって職場に溶け込んでいる。この光景には目を見張るしかない。また、あの頼りなかったなでしこも今ではアウトドアショップの店員。キャンプ経験を生かして後進にアドバイスをしている。ニート確定だと思っていたら、きちんと働いて自立しているのだからすごい。社会人に向いてなさそうな2人が立派に社会人をしているところに大きな変化を感じた。

キャンプ場作りは正直かったるいのだけど、みんなキラキラしているところは良かった。週末に山梨に集まってせっせと整地作業をしている。まるで学生時代のサークル活動のようだ。千明とあおいは地元だからいいとして、リンは名古屋、なでしこは東京、恵那は横浜である。移動時間だけでもとんでもなくかかるわけで、現実だったらおよそ不可能な計画だろう。しかし、アニメとは夢と希望のフィクションである。たとえ日々の労働で疲労の極限にあったとしても、週末は元気にキャンプ場作りに邁進するのだ。彼女たちの顔には暗い影ひとつない。とにかく目標に向かってキラキラしている。見ているほうとしてはこの眩しさがたまらない。

とはいえ、あおいが勤めていた小学校が閉校するところはシビアな現実である。少子化が進んで小学校は相次いで閉校、日本は衰退の一途をたどっている。キラキラした5人の背景には暗い現実が鎮座しているわけで、我々は今後どうやって生きて行くのか、アニメを観て現実逃避していいのか、そんな厳しい問いを突きつけている。

リンとなでしこの関係こそが本作の原点で、2人きりで山登りして露天風呂に入るところは尊かった。個人的にはここが一番のハイライトである。また、5人とも妙齢女性なのに、男の影が微塵もないところはさすがだ。登場人物が大人になっても美少女アニメの文法をしっかり守っている。

そして、本作はテレビ版【Amazon】と違ってキャンプをするのがメインではなく、キャンプ場を作るのがメインである。5人は休日を返上して社会貢献しているのであり、それは彼女たちが名実ともに大人になったことを意味している。リンもなでしこも我々を置いて遠くに行ってしまったのだった。