海外文学読書録

書評と感想

『デクスター』(2006-2013)

★★★★

デクスター・モーガンマイケル・C・ホール)はマイアミ警察の血痕鑑識官。しかし、裏の顔は殺人衝動に取り憑かれたシリアルキラーで、野放しになっている殺人犯を密かに見つけて殺害していた。マイアミ警察には妹のデボラ(ジェニファー・カーペンター)も勤務しており、彼女は風紀課から刑事課への転属を考えている。そんななか、刑事のドークス(エリック・キング)はデクスターに疑いの目を向けていた……。

全8シリーズ96話。

原作はジェフ・リンジー『デクスター 幼き者への挽歌』【Amazon】。

面白かった。全体の構想よりもシーズンごとの脚本がよく練られていて、ほとんどのシーズンでショッキングな幕引きを迎えている。主要人物を退場させるタイミングが絶妙で、視聴者に与えるインパクトを最大化させる手並みが鮮やかだった。個人的には、ドークス、リタ(ジュリー・ベンツ)、ラゲルタ(ローレン・ベレス)の最後に驚いている。全体を通して見ると、鬱陶しいキャラはだいたい始末されていて、ストレスを感じさせない作りになっていた。

デクスターは少年期に父親ハリー(ジェームズ・レマー)から「ハリーの掟」を仕込まれており、己の殺人衝動を有効活用する手段を身につけている。法で裁けない凶悪犯罪者だけをターゲットにすれば殺人も許されるだろう、という目論見だ。殺人衝動を満たしつつ自身は警察に捕まらないようにする。シーズンごとにデクスターは様々なサイコパスと出会い、彼らと交流することで教訓を得ていく。そして、遂には「ハリーの掟」を乗り越え、新たなステージに立つことになる。

本作は怪物が様々な経験を経て人間性を獲得していく話である。各シーズンに出てきたサイコパスはデクスターのあり得たかもしれない姿だ。他のサイコパスに対して審判者のように振る舞い、殺害という罰を加えていくデクスターは、正義を執行しているようでいて、その実、自分の欲望を満たしているだけある。そこには強烈なジレンマがあって、善と悪の葛藤は臨界点に向かっていく。と同時に、デクスターは偽りの家庭生活を通して徐々に人間性を獲得していくのだった。面白いのは、デクスターが人間性を獲得すればするほど物語は悲劇に近づいていくところだ。デクスターが怪物から人間に生まれ変わり、善と悪の葛藤が臨界点に達したとき、その悲劇は最高潮を迎える。本作の衝撃的なラストは必然だろう。結局はそれまでに犯してきた罪を精算し、人間性を獲得した代償を払うことになった。殺人という最高にエゴイスティックな行為は周囲を否応なく不幸にする。幸福が手に入りかけた瞬間、愛するものが損なわれるのは随分な皮肉である。

シリアルキラーのデクスターはその後ろ暗い本性ゆえに孤独で、秘密を共有できる理解者、言ってみれば自分の半身を欲していた。最終的にその半身が妹のデボラになるところはよく出来ている。デボラの他にはハンナ(イヴォンヌ・ストラホフスキー)も理解者であり、デクスターは彼女との平穏な生活を夢見ることになるが……。やはり本作は脚本が素晴らしい。