海外文学読書録

書評と感想

エリック・ロメール『友だちの恋人』(1987/仏)

友だちの恋人

友だちの恋人

  • エマニュエル・ショーレ
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★★★

パリ郊外。市役所に勤めるブランシュ(エマニュエル・ショーレ)が、食堂で学生のレア(ソフィー・ルノワール)と知り合う。ブランシュはレアと親密になり、やがて彼女から恋人のファビアン(エリック・ヴィラール)を紹介されるのだった。さらに、ブランシュはファビアンの友人アレクサンドル(フランソワ・エリック・ゲンドロン)と知り合い、彼に一目惚れする。ファビアンとの仲が上手くいってないレアは男友達と旅行に行くことになり……。

狭い人間関係における互い違いのロマンスを描いている。ブランシュにとってファビアンは友達の恋人で、付き合うには葛藤がある。一方、レアにとってアレクサンドルは友達の想い人で、こちらも付き合うには躊躇いがある。しかし、最終的には恋心に忠実になってカップルが成立し、ハッピーエンドを迎えるのだった。

ブランシュは公務員でお高そうな家に住んでるのに、なぜか自己肯定感が低い。アレクサンドルに惚れているものの、「彼はハンサムで私はブスだから」と卑下して告白できないでいる。確かにアレクサンドルはハンサムだし、電力会社のエンジニアでそれなりに地位も高い。臆するのも分からないでもないけれど、公務員のブランシュだって彼と張り合えるくらいの立場ではあるだろう。にもかかわらず、ブランシュは引け目を感じている。これこそが女性の抱えるルッキズムの発露で、いくら地位が高くてもブスというだけで自己肯定感が上がらない。容姿が評価のすべてだと思い込んでいる。内面化されたルッキズムの悲劇は日本でも多々見られるけれど、実は万国共通の問題であるようだ。欧米人はそういうのを気にしないと思っていたので興味深かかった。

アレクサンドルは周囲から地雷男と目されており、ブランシュも複数の人からたびたび警告を受けている。アレクサンドルはいわゆるプレイボーイで、来る者は拒まずというスタイルを貫いていた。レアもブランシュに警告したうちの一人である。面白いのは、そんなレアがアレクサンドルと恋仲になってしまうところだ。ちょうどファビアンと別れてフリーになったところを口説かれ、条件付きで交際することを承諾してしまった。最終的にはブランシュとファビアンがくっつき、レアとアレクサンドルがくっついている。表向きはハッピーエンドだけど、これからのことを考えると不安だ。なぜならアレクサンドルの浮気性が治るとは思えないから。レアとアレクサンドルは遠からず破局することが予想される。しかし、そんな予想とは裏腹に映画は4人が最高潮のところで終わっている。こういう物語の切り取り方こそフィクションのマジックと言えるだろう。これからも人生は続く。しかし、みんなが笑顔のところで一旦カメラを止める。人生の断片を記述することの妙味がここにはある。

エリック・ロメール監督はとにかく言葉で説明する監督で、登場人物はみな競い合うようにして自分の思いをまくし立てている。だから字幕を追うので精一杯だ。しかし、こういう演出の仕方は芸術映画では珍しいので新鮮に映った。大抵の芸術映画は言葉よりも映像で分からせようとする。敢えてその逆を行くところが面白い。