海外文学読書録

書評と感想

エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ『最強のふたり』(2011/仏)

最強のふたり (字幕版)

最強のふたり (字幕版)

  • フランソワ・クリュゼ
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★★★★

パリ。富豪のフィリップ(フランソワ・クリュゼ)は全身麻痺で24時間の介護を必要としていた。そんな彼の元に黒人のドリス(オマール・シー)が面接にやってくる。ところが、ドリスは就労する気はさらさらなく、失業保険を受給するためのアリバイ作りに来たのだった。フィリップはそんな彼を気に入り雇うことにする。

たまに鼻につくところがあったけれど、ちょっと変わったバディものとして十分楽しめた。黒人と障害者という個性的な組み合わせがいい。本作は2人のキャラクターが魅力的で、彼らの輪郭がはっきりしたところでぐいっと引き込まれた。

結局のところ、僕は男同士の友情が好きなのだと思う。それも身分違いの男同士。最近観た映画だと、『グリーンブック』が典型例だ。富豪かつ白人のフィリップと貧困層かつ黒人のドリスは住む世界が違うから、本来だったら出会うこともなかった。ところが、そんな2人が運命的な出会いを果たし、あろうことかがっちりと歯車が噛み合う。ドリスは男性性の強い人物で、何に対しても物怖じしない性格だ。富豪だろうが障害者だろうが関係なく対等に接してくる。貧困層ゆえにちょっぴりガサツでこちらの内面にずかずか踏み込んでくるものの、尊厳を踏みにじるところまではいかない。男同士肩を抱き合って馬鹿話するような理想的な距離感を保っている。あくまで対等、あくまで友人といった親密さ。インテリからしたらそういう真っ直ぐなところに好感を抱くわけで、身分を超越した2人の関係に憧れてしまう。

片方の男性性が強いというのがポイントだろう。フィリップにとってドリスは動けない自分を振り回してくれるという意味で、この男性性が有効に機能している。近年ではホモソーシャルが忌避される傾向にあるけれど、ジョークを飛ばして軽く傷つけ合う関係が心地いいのも確かだ。ドリスは遠慮なく障害をネタにしてくる。決して同情したりしない。フィリップはそんなドリスに振り回されながらも面白がって受け入れている。

男同士の友情を描きつつラストに異性愛を持ってくるあたり、マジョリティの規範に意識的という感じがする。友情はあくまで友情であって愛情ではない。絆で結ばれた2人はそれぞれ異性を愛する健全な関係であり、決してホモエロティックな行為には及ばない。友情と愛情の線をきっちり引いている*1フェミニストが観たらこの点を突っ込んできそうだけど、個人的にはホモソーシャルで何が悪いと思うのだった。

屋内でクラシック音楽を鑑賞していたフィリップとドリス。それを途中からダンスミュージックに切り替えてドリスが踊り出し、その場にいた人たちを巻き込んでいく。このシーンの気持ちよさったらもう。また、ドリスがフィリップに付き合ってパラグライダーをやるシーンも同種の快感がある。2つのエピソードはお互いのフィールドを横断しているという意味で重要だ。

*1:ただし、ここは対極にレズビアンカップルを配置してバランスを取っている。