海外文学読書録

書評と感想

京極尚彦『ラブライブ!スーパースター!!』(2021)

★★★★

私立結ヶ丘女子高等学校は新設校で、今回入ってきた入学生が初めての生徒。そんななか、澁谷かのん(伊達さゆり)、唐可可(Liyuu)、嵐千砂都(岬なこ)、平安名すみれ(ペイトン尚未)、葉月恋(青山なぎさ)の5人が、紆余曲折を経てスクールアイドルを結成する。グループ名はLiella!(リエラ)。ライバルのサニーパッションと共にラブライブ! の地区予選に参加するが……。

全12話。

『虹ヶ咲』はつまらなかったが、本作は面白かった。やはり京極尚彦花田十輝のコンビは鉄板ではなかろうか。キャラクターは魅力的だし、メンバーの絡みも抜群、また、適度なユーモアを交えつつ個人を掘り下げるところは神がかっている。何より悩める仲間をみんなで支えていくというコンセプトが素晴らしい。個人的には、『ラブライブ!』【Amazon】と『ラブライブ!サンシャイン!!』【Amazon】に匹敵するくらい気に入った。

澁谷かのんは極度のあがり症のため人前で歌えないという弱点があり、当初はスクールアイドルになるのが困難だった。ところが、そこをわずか3話で克服させている。こういうのはあまり引っ張っても視聴者にとってストレスになるだけだから、これで正解だろう。巧妙なのはこの設定を第11話で蒸し返したところだ。かのんが幼い頃の自分と向き合い、母校の体育館で独唱する。それはトラウマを克服する通過儀礼だった。舞台に立つ前には仲間たちがかのんをあれこれ後押ししている。結局、個人の問題とはその人自身が解決するものだが、本作では仲間たちと繋がることによって、「一人ではあっても独りではない」という温かいメッセージを打ち出してるのだ。個人を自立した存在として尊重しつつ、問題解決のためにささやかな手助けをする。そういう仲間たちの控えめな距離感が心地いい。

平安名すみれは幼い頃からショービジネスの世界で生きてきたことが自慢だ。ところが、ショービジネスの世界ではものにならず、プライドだけが肥大して困った性格になっている。彼女はメンバーの中でも平均以上のパフォーマンスを発揮しているものの、突き抜けたものは何も持っていなかった。すみれはビッグマウスとは裏腹に、内心では自信を喪失している。第10話はそんな彼女がグループのセンターを務める話で、これも第11話と並ぶくらい素晴らしかった。すみれに対して何かと当たりの強い可可が、男気を見せてすみれを奮起させている。これなんかは鳥肌ものである。敵に塩を送るというか、馴れ合いじゃないからこそ感動が引き立つわけで、やはり本作は人間関係の描き方が巧みだと思う。

唐可可はスクールアイドル活動に人一倍熱心な中国人で、彼女がいなかったらLiella! の結成もなかった。そういう意味では要の人物である。可可は来たるべき中国展開を見据えたキャラなのか、あるいは既に流入したチャイナマネーを反映したキャラなのか、いずれにせよ、メンバー間では笑いの中心となるキュートなキャラだ。かつての矢澤にこ黒澤ルビィのようなポジションと言えよう。おそらく2期では彼女を掘り下げるだろうから楽しみである。

私立結ヶ丘女子高等学校は新設校なのに初年度からいきなり財政難に陥っていて、いくらなんでもそりゃないよと思った。言うまでもなく、廃校の危機は『ラブライブ!』や『ラブライブ!サンシャイン!!』でも使われている。このシリーズ、同じクリシェを繰り返すところが玉に瑕だ。それと、普通科と音楽科で別れている設定はもっと生かしてほしかった。途中から関係なくなってるし。