海外文学読書録

書評と感想

アリ・アスター『ミッドサマー』(2019/米=スウェーデン)

ミッドサマー(字幕版)

ミッドサマー(字幕版)

  • フローレンス・ピュー
Amazon

★★★

アメリカの女子大生ダニ―(フローレンス・ピュー)が妹の無理心中によって家族を亡くす。失意に暮れていると彼氏のクリスチャン(ジャック・レイナー)からスウェーデンへの旅行に誘われた。クリスチャンは大学で文化人類学を専攻しており、スウェーデンのホルガ村で行われる夏至祭に興味があるという。ダニ―とクリスチャンは仲間たちと共にホルガ村を訪れる。

癒しがたい悲しみを負った女が異常体験を経て救済される。楽園みたいに明るい舞台で猟奇的なことをやっているのは目新しかったけれど、2時間半はさすがに長かった。ほとんどがカルト集団の祭事なり風習なりの描写だったし。本作はカルト集団なら何をしてもおかしくないという甘えの上に成り立っていて、死の恐怖を感じさせるにはちょっと薄っぺらかった。

白夜の地を舞台にしているところが絶妙で、ホルガ村の外観がとにかく爽やかなところが良かった。緑あふれる大自然に、絶え間ない陽光が降り注いでいる。この明るさを前面に持ってきただけでも大成功だろう。ホルガ村はキリスト教の楽園がイメージされており、白い衣服をまとった住民たちはさしずめ天使だ。歳をとった男たちは楽器を演奏し、若い女たちは華やかに舞い踊る。しかし、そういった楽園の裏側には我々の倫理観に反する奇習が存在し、それが「こちら側」の登場人物を次々と間引いていく。この辺は律儀にホラー映画の文脈に沿っていた。ただ、それゆえに突き抜けた面白さにはならず、構造上の限界を露呈していたことも否めない。つまり、舞台設定でお約束を破ったにもかかわらず、旧来的なプロットにしたせいで期待値が半減したのだ。

じゃあ、どうすれば良かったのかと言えば答えに窮する。ただ、結局は「こちら側」と「あちら側」の文化のズレによって恐怖を感じさせる構造なので、何をやってもカルト集団ならそんなものだよなあと冷めてしまう。たとえグロテスクな殺し方をしたとしても「こちら側」にはその必然性が伝わってこないし、それどころか、そういうルールがあらかじめ決まっているのだろうと納得してしまう。所詮は作られたカルトなので恐怖もへったくれもない。何が起きても見ているほうはすんなり受容してしまう。

女王になったダニ―がクリスチャンを生贄に選ぶところが最大の見せ場で、これは『ベルセルク』【Amazon】でグリフィスがガッツを生贄に捧げたようなものだろう。愛憎入り混じるがゆえの選択。この選択にはダニ―の生々しい感情が表れていて、本作における一番の恐怖を醸成している。しかも、それによってダニ―が救済されてしまうのだから歪んでいる。このラストはなかなか気が利いていた。

それにしても、訪問者の飲み物だけあからさまに色が違うのは可笑しかった。クリスチャンは女の陰毛を食わされたと知った時点で、怪しい飲み物に手をつけるべきではなかっただろう。何が入ってるのか訊いてもぼかしてるのに、なぜ勧められたまま飲んだのか理解に苦しむ。あと、裸の女たちが囲んでいる場所でセックスするシーンはいくらなんでも酷かった。妙に安っぽいというか、秘蹟めいた絵面が作られたカルトという印象を強くしている。