海外文学読書録

書評と感想

パーシー・アドロン『バグダッド・カフェ』(1987/西独=米)

★★★

砂漠のハイウェイ。ドイツから旅行に来た夫婦が喧嘩別れし、妻のジャスミン(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)が荷物を持って車から飛び出す。放浪の果てに彼女はバグダッド・カフェにたどり着くのだった。そこの女主人ブレンダ(CCH・パウンダー)は気が強く、当初はジャスミンに対して当たりが強かったが……。

話はシンプルだけど、所々に奇を衒った表現があってどこか歪な感じがした。これがハリウッド映画だったらもっと素直に撮ったと思う。良く言えば職人芸、悪く言えばあざとい感動もの、「これぞハリウッド!」みたいな。だから素直じゃないのが本作のいいところなのだろう。ありきたりな話を不器用な演出で彩っていく。その様子に手作り感があって親しみをおぼえた。

本作は家族のいないジャスミンが異国の地で家族を得る話で、やはり骨格はとても単純だ。それ以上のものは特にない。面白いのは、白人と黒人の関係が通常と逆転しているところだろう。白人のジャスミンよりも黒人のブレンダのほうが力関係では上である。ここバグダッド・カフェにおいて、ジャスミンは突然現れたよそ者に過ぎない。だから当初は得体の知れない人物として警戒されていた。ブレンダはジャスミンに対して当たりが強く、早く出ていけと言わんばかりである。ブレンダの刺々しい態度は客人であるジャスミンにも容赦がなかった。

それもこれもディスコミュニケーションの為せる技で、人間が親密な関係を築くにはとにかくコミュニケートすることが重要なのだ。自分の身の上を話すとか、あるいは相手のためになる行為をするとか。そういう小さなものが積み重なることで信頼が生まれ、両者の関係が深まっていく。沈黙よりも雄弁のほうが尊いし、傍観よりも行動のほうが尊いジャスミンがまずはブレンダの家族に受け入れられ、その後、全面的に人々から必要とされる展開は観ていて心地よかった。

ブレンダがすっかりやさしい女に変わったのは意外で、人が人に与える影響もなかなか侮れない。ブレンダがそれまで刺々しかったのは、砂漠での不毛な生活が原因だったのだろう。そこに現れたオアシスがジャスミンなのだ。ジャスミンは寡黙で控えめな人物だけど、彼女が一躍人気者になったのは手品ができたからで、「芸は身を助く」とはよく言ったものである。よくできた芸は国籍や人種を超える。よそ者に居場所を与える。人の心を掴む手段として、何か芸を身に着けておくのは重要なのかもしれない。