海外文学読書録

書評と感想

ヴィットリオ・デ・シーカ『ひまわり』(1970/伊=仏=ソ連=米)

★★★★

第二次世界大戦ナポリ娘のジョバンナ(ソフィア・ローレン)と兵士のアントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)が海岸で出会って恋に落ちる。結婚すると12日間の休暇がもらえるため、2人はすぐさま結婚するのだった。アントニオは精神病を装って兵役を免れようとするも、詐病がバレてソ連戦線送りにされる。終戦後、アントニオの消息は不明だった。スターリンが死んだ後、ジョバンナはアントニオを探しにソ連に行く。

男女の割り切れない思いを見事に映像化していた。ヘンリー・マンシーニの劇伴が2人のせつない関係を引き立てている。これぞ名画という趣だった。

実を言うと、途中までは随分と未練がましいなあと呆れていた。別れてから十数年経って会いに、それも異国の地に会いに行くのは正気の沙汰ではない、と。しかも、相手は消息不明だ。仮に生きていたら連絡のひとつでも寄越すだろう。音信不通の時点で何かを察するべきだった。案の定、アントニオは現地の女と新たな人生を始めていて、それを見たジョバンナはショックを受けることになる。一途な恋が一瞬にして仇になったのだ。しかし、十数年も経てばそうなるのも当たり前で、ジョバンナには同情できない。前述の通り、連絡がなかった時点で察するべきだった。結局は藪をつついて蛇を出すことになったわけで、ジョバンナの愚かさにはつくづく嫌気がさしてくる。

それに輪をかけてアホらしいのがアントニオの行動だ。というのも、今度は彼がソ連からイタリアにやってくることになる。アントニオはアントニオでジョバンナに未練があった。おいおい、妻子持ちなのにそれでいいのかと思うのだけど、そこは男女関係の割り切れなさだろう。アントニオとジョバンナの結婚生活はたったの2週間だった。しかし、それゆえにアントニオの中にはいい思い出しかない。おまけに現在の夫婦関係は子供ができて倦怠期にある。男にとって昔の女は輝いて見えるもので、手に入らなかったからこそ未練も募る。本作はそういった身も蓋もない心情に焦点を当てつつ、2人のすれ違いが運命的なものであるように印象づけ、ボタンの掛け違いがもたらした悲劇として感動を誘発させている。不合理な行動を割り切れない思いとして提示するあたり、この監督はただものじゃないと思う。

冷静に考えるとジョバンナもアントニオもやってることに無理があるのだけど、そこはヘンリー・マンシーニの劇伴で押し切っていて、音楽の力は偉大だと感心した。