海外文学読書録

書評と感想

マキノ正博『鴛鴦歌合戦』(1939/日)

★★★★

浪人の浅井禮三郎(片岡千恵蔵)は長屋で木刀削りをして生計を立てていた。彼にはお春(市川春代)といういい仲の娘さんがいる。お春の家は傘張りをしており、父親(志村喬)は骨董狂いだった。そんなある日、峯澤丹波守(ディック・ミネ)が往来でお春を見かけて一目惚れする。彼はお春を妾にしようとするが……。

陽気なオペレッタで面白かった。みんなジャズのリズムに合わせて歌うのだけど、これがまたモダンでいい。筋書きも楽しい部分とせつない部分で緩急をつけていて、どうなることかと気を揉みながら観た。

ミュージカルのいいところは歌うことで通常のドラマから場面が浮き上がるところだけど、オペレッタは通常のセリフもリズムに合わせて歌うので、そこが面白ポイントになっている。しかも、セリフを全部歌うわけではなく、通常のドラマパートも多い。そして、ドラマパートがあるからこそ歌が引き立つわけで、両者のバランスはとても大切だ。本作は歌が始まると見ていて心が浮き立つので、バランス調整は上々だろう。戦前の映画なので尺は短いものの、内容は濃密だった。

歌による掛け合いで印象的だったのが冒頭で、娘相手に何人もの町人が言い寄っている。しかし、娘は彼らに塩対応するのだから微笑ましい。また、丹波守がぞろぞろと家来を引き連れているところもよく考えられていて、家来たちのコーラスが耳に心地よかった。和楽器を奏でるとジャズの音色になるなんて粋である。昭和の楽曲は現代人が聴くとかえって新鮮に感じる。

浅井禮三郎が金持ちを嫌うところは、『丹下左膳余話 百萬両の壺』と同様、江戸時代に近代人の理想を重ねているところがあるけれど、それと同時に当時は日中戦争によって「ぜいたくは敵だ!」がスローガンになっていたから*1、時代の制約もあったのかもしれない。大日本帝国は資本主義的な欲望によって戦争していた反面、民衆にはそういった欲望を抱くことを禁じていた。この捻れた状況が国民国家の限界を表している。

色々な模様の傘が地面で天日干しにされていたシーンは壮観だった。また、小娘たちが着物姿で日傘を差して歩いているところもモダンガールっぽい。これが今どきのビニール傘ではなく、和紙でできた番傘だからいいのだ。お洒落アイテムとして家に常備しておきたいところである。

*1:1937年10月に第一回国民精神総動員強調週間が始まり、「欲しがりません勝つまでは」や「ぜいたくは敵だ!」といった戦時標語が掲げられた。