海外文学読書録

書評と感想

トム・マッカーシー『スポットライト 世紀のスクープ』(2015/米)

★★★

2001年。ボストン・グローブ紙に新任の編集局長バロン(リーヴ・シュレイバー)がやってくる。バロンは同紙の編集チーム「スポットライト」にゲーガン事件を取材するよう命じた。ゲーガン事件とは、神父が多数の子供へ性的虐待を加えた事件で、カトリック教徒の多い地元ではタブー視されている。ロビー(マイケル・キートン)たちスポットライト班が取材に乗り出す。

実話を元にしている。地道な取材活動に終始した志の高い映画だけど、正直これだったらドキュメンタリーで観たかった。ただ、腐ってもハリウッド映画なので、NHKスペシャルでたまに放送しているような再現ドラマよりはよっぽどいい。現場の臨場感を出すという意味では存在意義があるのだろう。社会派ドラマとして、飾り気のないところは評価すべきかもしれない。

教会の権力が強いから新聞社では太刀打ちできない。序盤でそういう話が出てくるけれど、蓋を開けたら全然大したことなくて拍子抜けした。というか、特に妨害らしい妨害もなかったと思う。マフィアをけしかけるとか、証拠を隠滅するとか、何らかの非合法的手段に打って出るのかと思っていた。記者たちは最初から最後まで安全に取材できている。目立った障害といったら、せいぜい弁護士や神父が証言を渋るくらいだ。また厄介な隠蔽工作もなく、ある記者は機密性の高い裁判資料にも普通にアクセスできている。結局、教会がやっていることは不祥事を起こした神父を異動させて身柄を保護するくらい。政治家に根回ししてないのは意外だった。

事件に枢機卿が関わっていることを暴いた記者が、特ダネとして記事にしたいと願いでる。しかし、上司はそれを許可しない。教会というシステムにメスを入れたいから、もっと取材を進めようと主張している。他紙にすっぱ抜かれる危険を冒してでも事件の本質に迫ろうとする。この辺の自制心は見上げたもので、正義感が大局的な判断に繋がっているところは見ていて気持ちよかった。

神父が性犯罪に手を染めるのは聖職者の独身制が原因なのだという。聖職者の実に半分が禁欲の掟を守っていないそうだ。しかしこれ、悪いのは人間の生理現象を無視した教会のルールだろう。現実と教義のすり合わせがカトリック教会の歴史的な課題で、これは現代になっても果たされていない。教会の存在そのものに疑問をおぼえる。