海外文学読書録

書評と感想

フランク・キャプラ『スミス都へ行く』(1939/米)

★★★★

上院議員が死亡した。後継者としてボーイスカウトの団長ジェファーソン・スミス(ジェームズ・スチュワート)が担ぎ上げられる。スミスは純朴で子供たちに慕われていた。しかし、背景にはダム建設を巡る不正があり、同州の上院議員ペイン(クロード・レインズ)もそれに関わっている。何も知らないスミスはワシントンに上り、サンダース秘書(ジーン・アーサー)から仕事のやり方を教えてもらうが……。

いい映画だった。無垢な新人議員が不正と戦う。こういう話に共感してしまうのも僕が理想主義者だからだし、本作も白けずに最後まで観れたので、まだまだ人の心を持っているのだなと安心した。

一個人が不正と戦うのって現実ではとても難しくて、下手したら裁判で何年も消耗することになる。費用だって馬鹿にならない。正直、金と時間を浪費するくらいなら泣き寝入りしたほうがマシだと思う。

と、現実にそういう苦労が横たわっているからこそ、スミスの戦いに感情移入してしまうのだ。バカ正直で、理想家で、政治については何も知らない。そんな青年が議会で泥臭く立ち回り、不利な状況を覆そうとする。映画だから最後に勝つのは分かっているといえ、どうやって勝つのかはギリギリまで分からない。結果的には手に汗握りながら観ることになった。

スミスが牛タン戦術に打って出たときは、もうちょっと何とかならないものかと思った。敵と議論して言い負かしたほうがスカッとするのではないかと思った。しかし、これは無垢だった青年が法の抜け穴を堂々と突き、なりふり構わず戦うからこそ価値があるのだと思い直した。ジェームズ・スチュワート演じるスミスは颯爽としたイケメンで、そんな彼が時に声を張り上げ、時に焦燥した表情を見せるのだから相当である。もし、格好良く言い負かしていたらこういう味は出なかっただろう。政治家としてはペインのほうが一枚上手であるため、彼は仕方なく弱者の戦術を採用している。それまで所属していたボーイスカウトの世界とは違い、汚い大人の世界では寝技が求められるのだ。このようにスミスが化けるのは意外で、勝利への執念がひしひしと伝わってくる。

地元に逃げ帰ろうとするスミスに対し、「信念がある人には必ず敵がいる」とサンダースが励ますシーンが最高だった。このセリフは座右の銘にしたいくらい。また、昔の映画は余計なエピローグがないところがいい。バッサリ終わることでかえって余韻が生まれている。思えば、『真昼の決闘』もこんな感じだった。

アメリカ人にとっての理想の政治家はエイブラハム・リンカンで、本作でもたびたび彼の影がちらついている。これは本格的にアメリカ史を学んだほうが良さそうだと思った。