海外文学読書録

書評と感想

ルイ・レテリエ『インクレディブル・ハルク』(2008/米)

★★

科学者のブルース・バナー(エドワード・ノートン)は施設で軍事研究をしており、自分の体を使って人体実験をする。その結果、心拍数が200を超えると怪物化する特殊体質になってしまった。軍から追われる身になったブルースは、ブラジルのスラム街に身を隠して生活している。ところが、あることがきっかけで軍に見つかり、最強の兵士ブロンスキー(ティム・ロス)と対峙することに。また、ブルースには恋人ベティ(リヴ・タイラー)がいて……。

予想以上に地味な映画だった。前半はブルースと軍隊の追いかけっこ、後半は怪物同士の対決である。CGで描かれた怪物と背景の融合がいまいちで、映像技術の限界が目についた。特に戦闘シーンでは怪物だけ画面から浮いている。もう少しどうにかならないかと思った。

序盤は善玉と悪玉の立場を逆転させたような構図で、たぶんヒーローものとしては異質なのだろう。というのも、普通だったら人間が善玉で、知略を駆使して怪物に挑むのが王道のはずである。それが本作では逆になっていて、怪物になった主人公が向かってくる人間どもを圧倒的パワーで蹴散らしている。見た目もいかつくて悪役っぽい。しかし、彼は軍に追われる身であり、捕まったらその実験成果を兵器に利用されてしまう。悲しい宿業を背負っているのだった。本作は心拍数が200を超えると怪物に変身するという設定が光っている。走っていても危ないし、セックスだってろくにできやしない。自分の意思ではなく、不可抗力で怪物になるところが悲劇である。

ブルースがハルクになった姿はボディビルダーも真っ青の筋肉だるまで、これは究極の男性性ではないかと目をみはった。もちろん、見た目に違わずパワーも桁違いである。その肉体は銃弾を弾き、軍隊の攻撃を寄せ付けない。彼と対等に戦えるのは同じく怪物化したブロンスキーくらいである。しかも、そのブロンスキーは自分より強い敵を熱望する戦闘狂で、ブルースと男性性を競おうとするのだった。このシンプルさは嫌いではないものの、それにしたってアメリカ人のマッチョ好きにはつくづく呆れてしまう。

ヒクソン・グレイシーがブルースの師匠役として出演していた。懐かしい。道場でブルースの頬を張り飛ばしていて、あれが素なのだろうという感じの自然さだった。昔は日本でも格闘技イベントが流行ってたよなあ……。