海外文学読書録

書評と感想

クエンティン・タランティーノ『レザボア・ドッグス』(1992/米)

★★★★

裏社会の大物ジョー・ガボットローレンス・ティアニー)が宝石強盗を計画し、息子のナイスガイ・エディ(クリス・ペン)と共に、ホワイト(ハーヴェイ・カイテル)、オレンジ(ティム・ロス)、ブロンド(マイケル・マドセン)、ピンク(スティーヴ・ブシェミ)、ブルー(エディ・バンカー)、ブラウン(クエンティン・タランティーノ)の6人を集める。ところが、犯行は警官の待ち伏せにあって失敗するのだった。強盗団は6人の中に裏切り者がいると疑う。

ホモソーシャルの崩壊が金や女を抜きにいかにして起こるのかを描いている。僕の知る限り、サークルクラッシュの原因はだいたいこの2つだ。たとえば、学生の集団はオタサーの姫を巡って血みどろの争いを繰り広げている。犯罪集団だとさらに金も絡んでくるだろう。よく男は理性的・女は感情的と言われるが、実際のところは男の集団なんて脆いものだ。金か女を放り込めばあっさり崩壊してしまう。

本作の面白いところは、サークルクラッシュの原因をこの2つに求めていないところだろう。具体的には、男同士の関係から浮かび上がる「情」にスポットを当てている。友情とも愛情とも違う、感情移入としての「情」である。本作ではホワイトがオレンジに肩入れした結果、組織があっけなく崩壊してしまう。プロは共感を元に行動しては駄目で、それをすると取り返しのつかないことが起こる。洒落にならないサークルクラッシュが発生する。この辺、最近話題の反共感論に通じるものがあって、極めて現代的なトピックだと言える。

強盗団に潜入していた警官が、成り行きとはいえ、一般人を銃で撃つところも印象的だ。彼は犯行に失敗して逃げる途中、車の運転手に銃を突きつけてハイジャックしようとする。しかし、相手から銃撃されて腹部に命中してしまう。そこで反射的に自分も撃って無辜の一般人を傷つけるのだった。本作は犯罪映画だから当然倫理的にアウトなことばかり描かれるのだが、この部分は撃った本人に後悔が感じられて何ともせつない気分になる。正義を執行する立場ゆえに、とっさの判断による不可抗力も言い訳にできない。そんな彼が贖罪もしないまま死んでいったのはさぞ無念だろう。こういうエモーションを織り込んだところが良かった。

ところで、この頃はハリウッド映画にPCが入り込んでいなかったのか、主要メンバーに黒人がいなかったのには驚いた。のみならず、黒人を揶揄したジョークも披露されている。個人的にはこの部分がもっともクールでスタイリッシュだった。現代人が昔の映画を見ると昔の大らかさにびっくりする。